第1章 An aimsear sona 〜幸せの時〜
シノア王国、夏。
空は珍しく見事に晴れ渡り、平らにならされた土は緑が覆っている。木々は茂り、今年もあちらこちらで菫の花が青紫の可憐 な花を咲かせ始めている。
この日、いずれ武士となる少年たちは、まぶしい陽射しをうとましく思いながら、それでも顔を輝かせて鍛錬にはげんでいた。
カァン!
かわいた音を響かせて、一本の槍が宙に飛ぶ。
「うあっ!」
するどい突きに得物をはね飛ばされた少年が、もんどりうって地面に転がった。
周囲から拍手と、げえっ!とかぎえっ!とかいう、ちょっと珍しい喚声が上がる。
「甘い!」
その相手は、額にふき出した汗をさっと払いのけ、きびきびした声で他の少年に呼びかけた。
「次っ!」
短槍を突きつけられた少年が、首を振りながら周りを見る。誰もが慌てて目をそらした。
「何だ、情けない!もう私の相手はいないの!?」
長い黒髪を頭の上で束ね、勇ましい男仕立ての服を身に着けた少女は、つまらなさげに唇を突き出した。
小柄な、思春期真っ只中の可愛い女の子。彼女の周りには既に17人の少年たちが大きなこぶを作って座りこんでいる。彼女がやったのだ。
「ジァヴさま・・なんでそんなに強いんだよ・・」
たんこぶができたばかりの頭をさすりながら、今倒された少年は涙ぐんでそうぼやく。
そこには20数人の、十代半ばほどの年齢層がつどっていたが、どうやら彼女が紅一点だ。他に女の子はいない。
「当たり前でしょう?あなた達がこんなに弱いんじゃ国の将来が思いやられるわ!女だからって編み物ばかりしてられないの!」
「ま、反論の言葉もありませんがね・・」
「でもジァヴは槍より編み棒の使い方を練習した方がいいと思うな。王妃様の肩掛けを作るんだって言って・・あれ何になった?毛糸のお化けかい?」
肩をすくめた少年たちが言うと、そこにいた皆がどっと笑い出した。
ジァヴは、思わずかっと頬を染める。15歳にもなって肩掛けもまともに編めないような少女は彼女ぐらいだ。
「おてんば姫の伝説がまた一つ増えた訳ですね。18人抜きとは・・かの英雄に愛されたジァヴ様の記録を超えてしまったのでは?」
からかわれたジァヴの目が、すうっと据わった。
「ふうん?ザン・・じゃああなたとリズクも倒して切り良く20人にしましょうか?ほら、かかって来なさいよ!」
目を吊り上げたジァヴの周りから、さっと人が引いた。
「来ないならこちらから行くけれど・・」
「げっ!開き直った!!じょおっだんじゃないっ!!」
「ええっ!!何で僕までっ!?」
背を向けて脱兎のごとく逃げ出した少年たちの後ろを、ジァヴは満面に笑みを浮かべて追いかける。
「待ちなさーぁい!!」
黒い石造りの大きな城を横切り、花畑まで追いかけて二人を見失ったジァヴは、ため息をついて追跡をあきらめた。
城の窓に嵌まっているセルズ製の硝子が、きらきらと光を反射している。女中達の仕事は今日も完璧だ。
「全く・・逃げ足だけは速いのね」
花をふみ倒してまで追いかける気はなかったが、本気で逃げられてちょっと淋しい。
「おてんば・・か・・」
ジァヴは槍を投げ出し、芝生に寝転んだ。服の上から草がちくちくと肌を刺すが、そんなことは気にしない。
「私・・何で女に生まれちゃったのかなあ?」
何となく、呟いてみる。
ジァヴ・ニ・シュリトゥーハルは、このシノア王国の王女。国王クローハルの長女だ。
昔からジァヴは気性が激しく、男だったら絶対に並ぶ者のいない武士になっただろう、と家族にも家臣たちにも言われて育ってきた。
昔は本当に男になれると信じたこともあったが、胸もふくらみ、体も心も変化が始まった今では、もうそんな子供じみた考えは持っていない。シノア王国では戦いは男の仕事。女は家の守り手だ。シノアにいる以上、ジァヴはどんなに強くても、おてんば娘以上のものにはなれない。
(吟遊詩人や語り部のお話の中には、女の戦士もいるのに・・)
Giamhというこの名前も、伝説に登場する女戦士の名だ。こんな名前をつけられたのが悪かったのだろうか。
幼い頃は兄が剣の手ほどきをしてくれたが、月経が始まったとたん、『お前は一人前の女になったんだから』などと言って、もう一緒に遊んでもくれなくなった。
「あ〜あ・・」
視線を感じたジァヴは体を起こし、ちょっと警戒して短槍を手元に引き寄せた。
城の近くで深刻な危険なんてないけれど、友達のいたずらにひっかけられるなんてまっぴらだ。
がさっ、花畑が揺れる。
「・・おねえさま?い、いらっ、しゃるの?」
「シー!」
ジァヴの顔から警戒が消え、笑みが浮かんだ。
おぼつかない足取りで花の中から現れた少女は、亜麻色の髪から花びらを落としながら、とてとてとジァヴに歩み寄った。
焦点を結ばない瞳をうれしそうに輝かせ、腕の中に飛びこむ。
「さっきからいた?気が付かなかったわ!」
「お、ねえ、さま・・あのね、おはなを、つんでいた、の・・」
腕いっぱいに抱えた花を差し出した少女の名は、シォダ。この2歳下の妹を、ジァヴはSidheと呼んでいる。妖精という意味だ。
「おねえ、さま、また戦って、いらっしゃったのね?汗をかいて、いるわ。息も、みだれて、る・・」
汗臭いと言われ、ジァヴはちょっと舌を出した。
生まれつき盲目のシォダは、見えない分、嗅覚や聴覚がとても敏感なのだ。
身だしなみに気を遣うお年頃、しかしジァヴは気にしない。
「シーは、今日は何をしていたの?」
ジァヴが膝の上に抱いてやると、シォダはうれしそうに手を振り、頭を振りながら話し始めた。
「あのね・・きょうはね、かぜさん、たちと、おはなし・・したの。でもね、今日は、みんな、わたしに、つめたいの。どうしてーって、きいたらぁ、わたしと、仲良く・・したら、おこられる、ですって!それで、ね・・」
ジァヴは少し困った顔をしたが、シォダに話を合わせた。
「そう。風さんや水さんはシーのお友達なの?」
「う、うん。お友だち、に、なった、ら、ね、つかれるって、いわれた、の。だからあ、お話しする、だけ・・なの」
ジァヴはシォダの髪を撫で、愛おしげに抱きしめた。
「シーには、お花さんの他にお友達はいないの?」
「うーん・・おねえさまがいるから、いいの。わたし、めが、みえない、の、へん、だって、言われるから・・」
ジァヴは眉をひそめた。また誰かにひどいことを言われ、いじめられたのだろうか?その場にいたらそいつを投げ飛ばしてやったのに。
「聞いてシー!私、またおてんばってからかわれたわ!もういっそ男の子になっちゃおうかと思ってたの!」
「ええっ!?困るよ!!」
ジァヴがびっくりしていると、近くの茂みが揺れて、りんごのようなほっぺたの少年が顔を出した。
「リズク、にいさま・・だわ」
「リズク!あなたそんなところに隠れてたの!?」
「いや・・そうじゃなくてね。転んじゃって、気がついたらザンに置いて行かれてたんだ」
ジァヴはあきれてシォダを膝から下ろし、立ち上がった。
「こんにちは、シォダさん。・・あ、おねむですか?」
リズクにぺこりと頭を下げたシォダの瞼は、重そうだ。
頭に葉っぱをくっ付けているリズクを茂みから引っぱり出し、ジァヴは苦笑した。
「疲れた?今日は外に出て、いっぱい遊んだんだものね。眠ってもいいわよ?シーが起きるまでここにいるから」
ジァヴが柔らかい芝生を選んでマントをしき、横たえてやると、シォダは瞬く間に眠りに落ちた。
リズクは自分のマントを掛け布に提供し、シォダを挟みこむように隣に座る。かなり小柄なシォダに、リズクのマントはちょうど良かった。
15歳にもなって子供子供したリズクを見て、ジァヴは思わずぼやく。
「本当、あなたが将軍になるなんて、笑わせてくれるわね。おまけに私の婚約者だなんて・・」
「そうだ!うん、そうだよ・・君は僕の奥さんになるんだからね。男になられたら僕が困る」
リズクは断固として主張した。
「じゃあ、あなたが女になればいいじゃない?あなたみたいに編み物も織物も上手な男って他にいないわよ」
「それで君が戦うって?・・そんなあ・・かっこ悪いよ」
リズクは赤毛から葉っぱや小枝をぶら下げたまま、情けなく肩を落とした。
本当に、強く言う気はないが、少しは女らしくなってくれないものか。
妹大事のジァヴには口が裂けても言えないが、王家の女は男勝りや物狂いばかりだと陰口が叩かれているのを知っているのだろうか?
リズク・マク・スイヴナは、双牙列島諸国を束ねる執政官の息子。二年前からシノア王に仕え、来年、ジァヴの十六歳の誕生日に婚姻を結ぶことになっている。
「心配しなくても。できる訳ないじゃない、そんなこと。言ってみただけよ」
ジァヴは、自分とは正反対に気弱で優しい少年に微笑みかけた。
半ば強制された、政略結婚の相手だったが、ジァヴはリズクを夫とすることに不満はなかった。どころか、首ったけなのだ。
ジァヴは一つ息を吐いて、思いきり芝生に寝転ぶ。
「ただね・・ちょっとねえ。私はこの先あなたの妻になってあなたの子供を産むでしょ?兄上が次の君主になって、あなたが兄上の元で働くの。私はそれを子育てしながら応援して、子供が立派に成長して、あなたの後を継ぐのを見届けるの。あなたに不満があるんじゃないのよ?それはね、きっと幸せだと思うの。でも何だか・・今から分かり切ってる人生進むのが・・つまらない、って言うか・・」
「分かるよ」
リズクは神妙な面持ちで頷いた。
「僕もたまに考える。僕にはもっと他の生き方があるんじゃないかって」
ジァヴは驚いたようにはね起きてリズクを見た。心配そうな彼女を見たリズクは、にっこりとあどけない笑みを見せる。
「まあ、父上や王様に逆らってどこかに行くような勇気はないけどね。それに・・」
「それに?」
リズクは深呼吸して、ジァヴから顔をそむけた。
「君を失ってまで、やりたいことはない」
「・・・・」
ジァヴは真っ赤になった後、口を押さえて吹き出した。
「・・うれしいわ。あなたにそんなこと言う甲斐性があったのね!」
「・・ほめてるの?」
笑われたリズクはすねたように上目遣いでジァヴを見る。
「当然よ」
ジァヴは声を殺した。
のどかな昼下がり。蝶の舞う花畑を眺めながら、少女を挟んで木の下に座る若い恋人達はどちらからともなく手をつなぎ、互いの目を見てくすくすと微笑み合った。
何だかとても幸せで、かと言って、唇を重ねるほどの度胸はなく。
(やれやれ・・)
リズクのお目付け役、ザン・ゼイルは物陰で肩をすくめた。
ジァヴがあきらめたようなので戻って来たはいいものの、これでは出るに出られない。
彼女に話したいこともあったのだが・・
(邪魔しちゃ悪いか)
おてんば王女や天然王子もお年頃のようだ。ザンはこっそりとその場から立ち去った。
花畑の向こうに見える回廊に兄の姿を見つけたジァヴは、手を振った。
気付かない兄に大声で呼びかけようとしたが、リズクに笑われて口を閉じる。もう少し幼い頃ならともかく、淑女のやることではない、と怒られそうだ。
「それにさ、僕はこれはこれで良いと思うんだ。君や陛下を守って一生を終えるのもね。知ってる?オシアン様が言ってたんだけど、琺夜国の王が代替わりして、他の国々を従わせようとしてるらしいよ。この国も危ないかもしれない」
「ああ・・昨日兄上と話してたわね。ええ、知ってるわ。だって、盗み聞きしてたもの」
さらりと言ったジァヴに、リズクは苦笑いした。
「・・20年ぐらい前に、セルズ国が琺夜に総攻撃をかけた時、シノアは形だけ、だけれどセルズに味方したわ。だから琺夜には、その時の復讐っていう大義名分がある。
既に『西』の盟主は琺夜だわ。ベルゼゲル王が亡くなってから、セルズの時代は終わったの。でも父上はまだシノアの絶対独立を唱えてる。
王国の伝統を守ろうっていう父上の気持ちは尊いと思うわ。でもこの国の危機を避ける為には一刻も早く強いものに付いた方がいい・・って言ったら、女が政治に口を挟むものじゃないって言われたのよ!そんなこと言ってる場合じゃないのに!」
「ジァヴ!シォダさんが起きるよ!」
ジァヴが形の良い眉を吊り上げて怒ると、リズクは慌てて小声で止めた。
シノア王国は、ユーグディア大陸の果て、アウリア海に面するクリシュエール地方にある。
霧立ちこめる森の中にひっそりと存在するこの国はまた、『霧幻の貴婦人』とも呼ばれる。海賊との戦いはしばしばだが、無法者達の存在も、国を大きく揺るがすほどの規模ではない。陸の方面は森という自然の障壁に守られているおかげで、歴史を通じて他国の侵略を受けることは稀だった。
19年前、当時のセルズ国王ベルゼゲルU世が艦隊を率いて現れたのが、約500年ぶりだっただろうか。それ以来、シノア王国はセルズ国の属領にされることは免れたものの、その傘下に取り込まれ、琺夜との戦いに協力することを余儀なくされた。
しかし、ほんの1年前、港を埋め尽くしていたセルズの軍艦は、唐突に姿を消した。アウリア海を渡って貿易船が訪れることも少なくなり、シノア王国は静けさを取り戻した。つまり、孤独を。
「ザンも言ってたわね。この国はもっと外交に積極的になるべきだって。今までシノアが平和だったのは大陸の国々から孤立していたからだけれど・・私もザンの意見には賛成なの。キァロン宰相やニール将軍と一緒になって父上は反対なさるんだけど。時代は変わってるわ。他の国と手を結んで強い連帯を作る姿勢を持たなければ、これから先、生き残っていけない。どうして父上にはそれが分からないのかしら?」
リズクはもじもじと下を向いた。
「僕は・・その、セルズの兵隊は嫌いだな。クローハル陛下もちゃんと考えていらっしゃるんだよ。その、僕と君が結婚すれば、アウリア海の島々とシノア王国は兄弟みたいになるんだし・・それでいいじゃない?」
ジァヴはちょっと顔をしかめた。
「私もセルズ人はだいっ嫌いよ」
去年まで我が物顔で城にのさばっていたセルズの兵士達。
丈の短い服を着て太腿をむき出しにして戦うジァヴに、彼らはとてもすてきな綽名を贈ってくれた。
“Jade”――セルズ語で「あばずれ女」という意味らしい。
「でも、必要なら仲良くするわ。私達がまず模範を示さないと。シノアの人々はみんな、よそ者を嫌うんだから。外からやって来る人達が海賊ばかりじゃないってことを見せてあげないとね」
リズクはちょっと哀しげにジァヴを見た。
本当に、ほんのちょびっと、ジァヴが男だったら、と思ってしまったのだ。
愛しい少女は、自分などよりずっと強いし、賢い。おそらく長男のオシアンよりも、次代の王にふさわしかった。彼女が君主になるなら、王国の未来は今よりずっと明るかっただろう。シノアの歴史に女王が一人もいなかった訳ではないが、王に健康な息子がいる以上、ジァヴが王位を継ぐことはない。
落ちてきた前髪が気になり始めたジァヴは、乱れた髪を結び直そうと髪紐を解いた。
風が、ジァヴの背中の中程まである髪をかすめて行く。
萌える緑の匂いがする髪にふわりと顔を撫でられたリズクは、眩しそうに目を細めた。
「ジァヴの髪って綺麗」
「嫌だ・・今なんて汗だらけでべたべたよ?」
ジァヴが恥ずかしそうに頬を染めると、リズクはくすくす笑った。
「ほら、こんな風にお日さまに当たると輪っかができて天使みたいだ!」
木の上で小鳥がさえずった。
「・・・・」
ジァヴは、ぱちんと瞬きをする。
「・・あ、あなたねえ・・今本気で言ったわね?」
「うん。ジァヴに嘘なんかつかないよ」
のほほんと柔らかい笑顔の少年に、ジァヴは気が抜ける。
「ほんとーにお坊ちゃま育ちなのねえリズクは。そんなだからザンに『夢見がちな王子様』なんて言われるのよ?」
「そうかなあ?僕はそういうつもりないんだけど。別にいいんじゃない?ジァヴが現実主義者だから釣り合いが取れてるよ。ふつうロマンティックなのは女の子だけどね」
「じゃあやっぱり逆にする?」
「えー!?」
ジァヴはひそかに喜んだ。
綺麗と言われてうれしくない訳がない。ましてや、それを言ったのが愛する人だったら。
ジァヴは、自分の容姿をそれなりに気に入っている。
“藍”族らしい真っ直ぐな黒髪、くっきりと太い弓形の眉、厚い唇は父譲り。そして、この季節に国中に咲く菫と同じ色をした瞳、丸っこい耳は母譲り。両親のものを均等に貰ったみたいで。
リズクはジァヴ以上に、負けん気が強そうで、知的でいて愛らしい顔が大好きだった。
世界一美しい黒髪を持つと言われる東の賢士だって、自分の婚約者ほど綺麗ではないだろうとリズクは信じている。
「ジァヴの目は・・やっぱり菫翡翠の色だよね」
「・・まさか琺夜が知っているとは思わないけれど・・」
幸せいっぱいで口にしたリズクは、話を元に戻されて初めて、しまったと思った。
シノア王国の王女達の名前は、国を富ませてくれる宝石と絹から取っている。
シノアは絹織物産業以外、取り立てて資金源のない小国だが、国家機密として隠されている、良質の翡翠の鉱山があるのだ。中でも珍しい菫色の翡翠が『南』の上流階級に愛され、高値で取引されている。今まで採掘された最も巨大な塊は肩当に加工され、南賢黒曜帝の肩を飾っていると言う。
それに琺夜国が目を付ければ・・シノア王国は軍資金を求めるあの国の、格好の餌食になってしまう。
「でも・・琺夜と手は結べないと思う。陛下はまだイーファ様のこと・・」
リズクはジァヴの顔が曇ったのを見て、またまた失言に気が付いた。
「・・ごめん」
ジァヴは寝息を立てている妹の額を撫で、首を振った。
「いいえ・・そうね。あなたの言う通りだわ。母上にこれ以上お辛い思いをさせることなんて、父上がする筈ないもの」
しばし、重い沈黙が流れた。
(かわいそうに・・)
リズクは姉妹を見つめ、そう思った。
シォダ姫は視力障害の影響で、少々知能の発達が遅れている。
そして、何よりも彼女は・・
妹思いのジァヴにこんなことは言いたくないが、あまり人前で彼女と仲良くしていると、ジァヴにまで悪い噂が立つのではないか?
「余計なこと考えないで。リズク」
彼の心を読んだように、ジァヴが笑った。
「私・・あなたもシーも大好きなんだから・・」
第2章に続く