Ubiquitous 〜放浪の民語り〜

 現実世界において、『人種』という言葉は生物学的に誤りであると言われています。
ネグロイドもコーカソイドもモンゴロイドも、みんな同じホモ・サピエンスですからね。「黒色人種」とか「白色人種」とかいう言い方は生物学的に間違っているだけでなく、時によっては差別用語となることも。

 しかし、
 この物語の世界では、本当に「人種」なるものが存在します。
まずは普通の人間。勿論、黒白黄色の肌の奴ら。
 それから、神様の子孫とされる、神霊属人〈ナプトびと〉と呼ばれる亜人間。
 ナプト人はほとんどの場合、ぱっと見普通の人間です。しかしながら、異なる人種間の交配で子供を作ることはできません。できたとしても、子供は繁殖能力を持たず、次世代の子孫を残すことができません。例外もありますが。

神話
 放浪の民(ユビキタス)は、星の女神ルイヤの娘、魔術の女神アストラム(Astrum)の子孫。
 『南』の人々には、「砂漠の子供達」という意味で「ケレド・カセト(Khered Khaset)」と呼ばれます。これが訛って、『西』では広く「カルサン・カラジ」と呼ばれますが、『西』の人々はこれを「砂漠の無法者」という意味だと思っているので、これは差別用語です。


生態
 ユビキタスは肌も目も髪も濃茶〜黒。メリハリのある優美な体つきをしていて、踊るように優雅な動作を生まれつき身に着けています。
 顔のパーツが大きくて髪が縮れているネグロイド系と、鼻が高くて髪がそれほど縮れていないコーカソイド系がいます。勿論混血も。太古から熱帯〜砂漠地帯に生活している民なので、コーカソイド系も肌の色は黒めです。
 (琺夜族以外の)他の神霊属人(ナプトびと)との間に子供を作ることはできませんが、人間との婚姻は可能です。生物学的には可能ですが、ほとんど前例はありません。ユビキタスと人間との間にできた子供は、何故か母方の特徴を強く受け継ぎます。

 稀に、瞳孔が黒い三日月形の、金色の目をした子供が生まれることがあります。
 この目を持って生まれた子供は「ノドゥス・ラピス(石の結び目)」と呼ばれ、5歳までに、ユビキタスしか立ち入ったことのない岩石砂漠の奥地に連れて行かれます。そこには岩を掘って作られた町があり、「ノドゥス・ラピス」は一生をそこで過ごし、15歳までに儀式の生贄にされるしきたりです。


歴史
 彼らは『南』のヴェンステラ砂漠を移住する民で、砂漠のスペシャリスト。砂漠を渡る旅人には非常に頼りにされています。
 彼らの多くは駱駝の背に乗り、砂漠の隊商として生活していますが、しばしば他の隊商や旅人を襲ったり、砂漠を安全に行き来する為の案内料として法外な金を請求したりする者もいるので、『北』や『南』の商人達には憎まれています。

 また、「ノドゥス・ラピス」の金色の瞳には恐るべき魔力が宿っている為、『南』の民には「イル・セネジュ(恐怖の目)」、『西』の民には「イービル・アイ(邪眼)」などと呼ばれ、恐れられています。

 異国の商人達はしばしばユビキタスを迫害し、彼らも身を守る為に、しばしば残酷な報復を行います。

 最近で最も凄惨な事件は、サフェイス暦1458年9月10日の、琺夜国軍による一斉虐殺です。
 ユビキタスの旅賊が琺夜貴族のキャラバンを襲って皆殺しにした報復として、貿易の中心都市カエタスにいたユビキタスを根こそぎ殺戮したのです。この時、ただ一人セルズ人将校に救われて無事だった赤ん坊を除き、『西』からユビキタスは一掃されました。


その他
 ↑この時、殲滅作戦の指揮を執ったのが、ジロム=ユーン将軍。サブキャラページのクレイさんの伯父です。
 ジロム将軍は自分の息子を殺された腹いせにユビキタスを殺しまくっただけですが、ユビキタスにとって不幸なことに、彼らはあまりに評判が悪かったので、『西』全土の民は(琺夜の敵国セルズの民でさえも)ジロム将軍を英雄として称えています。
 この時唯一生き残った赤ちゃんが、同じくサブキャラページのカリクシュール・ホルスケーラ(ラ・モート・ジェネラル)です。ユビキタスの歴史で15年以上生きた「ノドゥス・ラピス」は、ここ千年では彼一人でしょう。

 ユビキタスの話す言葉は、主にステラ語。『西』と『南』の間を行き来する隊商や旅賊は、ミストーナ語やイミール語、世界標準語(ファブリシス)も理解しますが、砂漠の中でオアシスを点々とするような孤立した生活をしている人々は、ステラ語しか話しません。

 結構謎の民です。ベドウィン族っぽいイメージで。
 設定は色々練りこんであるけど、『傍観神話』本編で登場するユビキタスは、たぶんカリクシュール一人。しかもこいつ孤児で、セルズ文化圏で育ったから、自分の一族のこと全然知りません。興味は持って、自分で色々調べてはいますが。

♪「序の想歌」 Music by Vagrancy.