La Beauté Violette 〜菫の佳人〜

むかし 緑の山と清らかな川のそばに、霧に包まれた美しい国がありました。

その国にはかしこくやさしい王さまがいて、人びとはとてもしあわせにくらしていました。

王さまには国じゅうで一番美しい娘がおりました。

王さまに似てかしこく、やさしい心をもったお姫さまは、

国じゅうの人びとから“菫の佳人”と呼ばれて愛されていました。

というのも、

お姫さまはお城の庭に咲き乱れるスミレの花のように

きれいな青むらさきの目をしていたからです。



美しい姫のうわさはほかの国にも知れ渡り、

姫が15さいになるころには

あらゆる国の王子たちから結婚を申し込まれるようになりました。


川向こうにある戦争好きの国の王さまも、

ぜひそのお姫さまをきさきにしたいと思っていました。

というのも、その王さまは国の広さも兵隊の強さも何もかも一番だったので、

一番美しい女が自分のきさきになるべきだと思っていたからです。



戦争好きの国の王さまは、兵隊を率いてお姫さまの国にやってきました。

そしてとんでもないことを言います。

「姫を渡せ。さもないとこの国をほろぼしてしまうぞ」

姫の父である王さまは困り果てました。

「あんなおそろしい男のもとにかわいい姫を嫁がせたくはない。

しかし姫を渡さなければたくさんの人びとが殺されてしまう・・」


美しい姫を一目見たときに 戦争好きの国の王さまはこうさけびました。

「返事など待っていられるか。この国をほろぼして姫をうばいとってやる」



川向こうの国の兵士たちは またたく間に国をほろぼしてしまいます。

たくさんの人びとや王さまが殺されてしまうのを見て、お姫さまは大いに嘆きました。

「わたしさえいなければこの国の人びともお父さまも平和でいられたのに・・」

お城をおおいつくしていたスミレの花は一本残らず踏みつぶされ、

残った青むらさきはお姫さまのひとみの色だけとなってしまいました。


「わたしは美しいと言われたけれど この国をほろぼしてしまった。

いっそわたしが男だったなら、この手で国を守れたのに!」

そうさけんだお姫さまは

長い黒髪を男のように頭の上にたばね、剣を持って馬に乗り、

死ぬかくごでお城を飛び出しました。



戦争好きの国の兵隊は、姫を名のある戦士だとかんちがいして勝負をいどみましたが、

ことごとく負けてしまいます。

冑のすきまから美しいスミレ色の目を見ただけで、

兵士たちはおどろいて身動きできなくなってしまうのでした。


長い長い戦いの後

負けてしまったお姫さまは、川向こうの国の女王さまになりました。

女王さまは戦争好きの国の兵隊にやさしい心を持つことをおしえ、

まったく戦争を行わなかったので、

その国はスミレの花が咲き乱れる平和な国になりました。


                                           『マクニー・ツァイセン童話集』

軍事国家が乱立する『西』で、子供達に読まれている童話。
現実世界でも、道徳性のない、あるいは子供に理解し難い道徳性を問う物語は、
子供向けハッピーエンドに作りかえられたりもするワケですが、こいつは無修正。
↑の童話自体は君影オリジナルです。その内本編に絡んできます。

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