まほろば アイヌ語を知りたい

『アイヌ神謡集』序文、あまりにも美しい日本語で綴られた痛切な叫び・・
シロカニペ ランラン ピシカン(銀の滴降る降るまわりに)の響き・・
知里幸惠さんの短くも美しい生涯を知って、涙したのは私だけではない筈。

2010年7月にイチャパを教えて下さった匿名様、
2014年5月にカムイチェノミと非常に参考になるサイトを教えて下さったK様、
本当にありがとうございます。
web拍手で情報を頂いたり、それに奮起してちょっとだけ勉強したりして、
空耳が一見まともっぽい文章になったよ!でもあんまりそれっぽく聞こえない嘘っぱちだよ!
引き続き、ご意見、情報をお待ちしております<(_ _)>
(2014.12.12再追記 
2010.7.30 追記)

コㇿ パㇰ トゥ ネワ
moshir kor huchi oripak  turano ne wa ne
国土を司る神 遠慮、行儀 ~と一緒に ~で ~である
名詞mosir(大地)
動詞kor(~を持つ)
名詞huchi(おばあさん)

Apehuchi-Kamuyの別名
アペフチカムイ(火の女神)
動詞または名詞   動詞
大地を統べる媼神様 畏みと共にであります

huchiのhがほどんど消えて(モチ)かも。
03:11~03:17

ㇿカ セ ウトゥム ク オンカミ
korka a=pase kewtumu ku=koonkami ne
~けれど あなた様の偉大な心 私は~を礼拝する
接続詞 四人称の人称接辞a(ここでは二人称敬称の所有接辞)
動詞pase(重くなる、偉大になる)
名詞keutum(精神、感情)の所属形
一人称単数の人称接辞ku
指示接頭辞ko(~を)
動詞onkami(礼拝する)
 
けれども あなた様の尊い御心を私は礼拝いたしますよ

03:17~03:23

 たぶん前半はカムイノミの定型表現なので、合ってる。後半は捏造上等。諸々のカムイノミを参考に、いい加減ながら繋げてみた。特にkewtumuとか志方さんの歌声だとこんな風に聴こえないのでたぶん違う。

 ちょっとびっくりしたアイヌ語の特徴Best3↓
 1.動詞に過去形がない。(過去を表す表現は可能)
 2.形容詞がない。(例えば「美しい」も「美しくなる」も動詞pirkaで表現する)
 3.一~三人称の他に四人称がある。(包括的一人称複数つまり聞き手を含む「私たち」、不定人称、二人称敬称などを表現する)


ちなみに最初に晒した空耳↓からの流れ

シㇼ コㇿ ッパ ㇽクペ ッタ クㇽ
moshir kor huchi horippa kurkupe or ta hap se kur
大地 ~の、~を持つ おばあさん 踊れ ~のところで ~を背負う ~する人
大地を統べるおばあさん 自動詞horippa(踊る)
一人称単数への命令?
or(~のところ)
ta(~で、~に)
Apehuchi-Kamuyの別名
アペフチカムイ(火の女神)
?kohoppa
(~を~に残す)?
違う・・
語尾破裂音っぽい


ㇺカ
ku=momka
私がそれ(ら)を流す
動詞momka(流す)
主格:一人称単数
目的格:三人称?

 追記:匿名様より、「イチャパ(先祖供養儀式)」の一部に聴こえるとのご意見を頂きました。

 萱野茂さんの辞典によると、『お盆の頃,お神酒をあげて死者の供養をする』儀式とのこと。萱野さんの故郷二風谷では「シンヌラッパ」、旭川では「イヤレ」、そして静内では「イチャパ」と言うそうです。これらの言葉は、「祖霊祭」とも訳される儀式そのものを指すこともあれば、儀式の中で「先祖に供物を送るために唱える祝詞」を指すこともあるようです。

 さて、前置きが長くなりましたが、アイヌの祖霊祭で唱えられる祝詞、アペヘコテカムイノミ(火の神への祈り)、シンヌラッパ/イチャパ(先祖に供物を送る言葉)は、どちらも冒頭部分で火の神に語りかけています。

 アペヘコテカムイノミ冒頭

イレスカムイ(人間を育てる神) モシㇼコルチ(国土を司る神) チランケピト(天から降ろされた神)
オリパク(遠慮) ト゚ラ(と共に) ネワネコㇿカ(ではありますが) 

 シンヌラッパ/イチャパ冒頭

イレスカムイ(人間を育てる神) モシㇼコルチ(国土を司る神)
オリパク(遠慮) ト゚ラ(と共に) ネワネコㇿカ(ではありますが) 

 志方さんの「まほろば」コーラス部分と比べてどうでしょう?私は「モシコルチ オリパク」までそれっぽく聴こえるのですが、続きは「ト゜ラ ネワネコカ」ではないような・・とか思ってたら、K様より、「カムイチェノミ」の一部ではないかとのご意見を頂きました。

モシㇼコルチ(国土を司る神) オリパク(遠慮) トラノ(一緒に) ネワ(~して) (~に) コロカ(けれど)

 アペヘコテカムイノミ、シンヌラッパ/イチャパとほとんど同じですが、おお!「ト゚ラ(トゥラ)」の部分が「ト゚ラノ(トゥラノ)」だと、私のボロ耳にも字数的にそれっぽく聴こえる!

参考資料
 ・『萱野茂のアイヌ語辞典 増補版』(三省社 2002)
  ご自身アイヌ民族であられる萱野茂さんの「アイヌ語を、アイヌの文化を知って欲しい、後に作られるであろう大辞典の基を作りたい」という願いの結晶。収録語数8600語。これ以上の辞書を求めるなら北海道とか国立国会図書館とかに行くしかない。研究者でもない個人でも入手しやすいアイヌ語辞書。これの他には、草風館が『アイヌ語沙流方言辞典』とか『アイヌ語千歳方言辞典』とかを出してるらしい。仕方ないけどどれもそれなりのお値段するよ!

 ・『CD付 ニューエクスプレス アイヌ語』(白水社 2013)
  『アイヌ語千歳方言辞典』の著者でもある中川裕さんの著作。沙流方言をベースにしているとか。やっぱりこのシリーズはいいなあ。多言語学習者にはお馴染みと言うか、日本語からマイナー言語を勉強できる音源付の入門教材なんてほぼこれ一択!みたいな状況も多々あるニューエクスプレスシリーズからアイヌ語が!ありがとうございます!昔のCDエクスプレス(こちらは千歳方言らしい)も図書館で借りて読んだことあるけど、これが出るのを心待ちにしていました!知らん間に『カムイユカでアイヌ語を学ぶ』(白水社 2007)のCD付改訂新版まで出てるし!

 ・『JCB WORLD SOUNDS 日本/アイヌのうた』(ビクターエンタテインメント 2000)
  アイヌの口承文学の一部が収録されたCD。出演は萱野茂さん及び平取アイヌ文化保存会の皆さん。

 ・『アイヌ語電子辞書』 http://homepage3.nifty.com/tommy1949/aynudictionary.htm
  富田隆さんによるオンライン辞書。収録語数なら萱野さんや中村さんの紙の辞書より多いよ!K様より教えて頂きました。

 ・『第12回 平取ダム地域文化保全対策検討会』
 http://www.mr.hkd.mlit.go.jp/mrken_works/chisui/sarugawa_sougoukaihatsu/biratri_dam/biratri_kankyo/kentou_yoryo/pdf/12_isshiki.pdf

 国土交通省北海道開発局室蘭開発建設部が平成23年に行った、平取ダム建設予定地周辺のアイヌ文化保全対策検討会に使われた資料。この中の26~27ページ、平成22年度地域文化調査報告参考資料にアベツ沢でのカムイチェノミが載っています。こちらもK様より教えて頂きました。
 沙流川総合開発に関しては、↑辞典の萱野茂さんがかつて二風谷ダムの建設に強硬に反対したお一人。結局ダムは完成したけれど、彼らの行動がアイヌの現状と伝統維持への情熱を日本に知らしめたんだよな。ダム建設で聖地や文化の一部が失われるのは許し難い。けど、治水も大事。洪水怖い。どこにでもあるジレンマ。遠く離れた愛媛の人間としては、平取の未来がそこに住む人々にとって幸福なものであることを願うばかり。