鏡合わせの翡翠 ナワトル語メモ
love solfege 『スト・ナ・クヱタ』より
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作詞は安定の真名辺あやさん。
歌手は新たなゲスト、VsingerのHoshiHoさん。
メモはちょこっとだけあるナワトル語部分のみ。
何とbandcampで無料で聴けます!
勿論惚れたらお金も払えます!
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※カナ読みは適当です。古典語(16世紀)だと母音の長短区別してたけど現代ではしてない?"h"は元々声紋破裂音だけど現代ではhや西語のjっぽく発音することも?ほ、ほう?
頻出する"tl"は音声学的には「無声歯茎側面破擦音」とかいうやつで、「トゥル」?「トッ」?「チュ」?カナには近い音すらないぞ!などと色々諦めてつけてます。
・tonalli(トナリ)・・「トナリ」。名詞の単数独立形(所有形ではない形)。ナワ族の思想において、人間の体に宿るという3つの生命力(気?)の内の一つ。頭部に宿り、人の性格や運命を決定し、体温や成長を司る。一年260日の祭祀歴トナルポワリ(Tonalpohualli)の誕生日によってその人の持つトナリ、性格が決まるらしい。この辺ちょっと干支とか12星座っぽい。
夢を見ている時、酔っ払った時、恐怖体験、性行為、麻薬使用などで体から抜け出てまた戻ることもある。他人の髪の毛や血を取って、トナリを奪ったり他の人に移したりすることができる(髪はトナリを守る防具)。名前を共有することで、トナリを共有したり受け継いだりすることもできる。「日(day)、夏、太陽、太陽の熱、運命」などの意味も。
・teyolia(テヨリア)・・「テヨリア」。名詞。人間の体に宿るという3つの生命力の内の一つ。心臓に宿る。知識や感情、記憶の源。スペイン語ではánimaやalma(日本語で言うところの「魂」)と訳された。「トナリ、テヨリア、イヨトル」を纏めて「3つの魂」と表現することもある。生きている間はずっと心臓に留まり、死ねば肉体を離れ、いくつかある死後の世界のいずれかへと旅立つ。来世に飛び立つテヨリアのため、故人の口に富裕層なら翡翠、貧困層なら黒曜石を入れて葬る風習があったらしい。六文銭的な用途だったのだろうか。戦場で散った戦士、産褥で死んだ母、祭壇で犠牲になった者のテヨリアは、昼の太陽と共に4年間空を巡る栄誉に与かるという。
"Lectura Del Náhuatl"(p351 欄外註釈1227)では、不定目的語接頭辞te-(誰かを、人々を)+自動詞yoli(生きる)+使役形接尾辞-a(~させる)で「人々を生かすもの」、あるいは一人称複数の所有接頭辞to-(私たちを)+自動詞yoli(生きる)+使役形接尾辞-a(~させる)が由来で「私たちの命の源泉」のような意味だと考察されている。yollotl(ヨロトゥル 心臓)と同語源。
・ihiyotl(イヒヨトゥル)・・「イヨトル」。名詞の単数独立形。人間の体に宿るという3つの生命力の内の一つ。肝臓に宿り、人に情熱と活力を与えるが、悪臭を放つ有害な発光ガスでもあり、死後は肉体の外に出て来る。「息、呼吸、滋養」などの意味も。
『トナリ、テヨリア、イヨトル』
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・tlazohcamati(トゥラソカマティ)・・「ありがとう」。間投詞。
・ohua(オワ)・・「ああ」。間投詞。
・nimitztlazohtla(ニミツトゥラソトゥラ)・・「私は君を愛する(愛している)」。一人称単数の主語接頭辞ni-(私は)+二人称単数の目的語接頭辞mitz-(君を)+他動詞tlazohtla(愛する)の現在形。
『ありがとう。ああ、あなたを愛してる』
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・tezcatl(テスカトゥル)・・「鏡」。名詞の単数独立形。
余談だけど、アステカ神の中で日本における知名度トップ3に入るであろうテスカトリポカ(Tezcatlipoca)神のお名前は、tezcatl(鏡)+三人称単数の所有接頭辞i-(それの)+pocatl(煙)から独立形接尾辞-tlを取ったやつで「鏡の煙」の意味っぽい。
※pocatlは珍しい形で、poctliの方が一般的とか何とか。
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エスニックな音楽、アステカ文化リスペクトの歌詞、HoshiHoさんによる透明で可憐だけど凛然とした強い歌声。え?すっごくこの歌に合ってない?好き。
「デヴォイカ・マルタ」や「石塔のカルテシア」がツボに刺さる方なら、これもたまらん気がする。あとアルバム『フタリノワタシ』が好きな方も別ベクトルで好きな気がする。
「スト・ナ・クヱタ」リリース前特別配信ラジオ第2回で、メインパーソナリティー坂田さんと広報担当星むつみさんのこの曲語りを聞ける。「分かる~!ですよね~!HoshiHoさんのクリスタル・ボイスいい~!5拍子私も好き!同じく聴く分には!」とはしゃいでたところで、「一部日本語ではない言語はナワトル語」で「……は?」ってなった。真名辺さんさぁ~、その、引き出しの多さと言うか、求める世界観追求への熱意と言うか、飽くなき探求心と言うか、何なの!?大好きですけど!?
何かと人の心臓抉り出して色んな神様に捧げがちなアステカ文明。
神話によると、テクシステカトル(Tecciztecatl)とナナワトル(Nanahuatl)という二柱の神が、4日の苦行の後に炎に身を投げ、それぞれ月と太陽になった。生まれた太陽と月を動かす風を吹かせるために、他の神々も自らを犠牲にした。「4の動きの時代」と呼ばれる現世は、こうして生まれた。太陽の運行や世界のあらゆる活動を維持するために、人間も生贄を捧げ続けなければならない。生贄になるのは素晴らしいことである。世界と人々の役に立つ上、立派な死に方した人のテヨリアは一番いい来世トナティウイチャン(Tonatiuhichan)に行けるのだ。わー物騒。
人間の霊とか魂魄とか気っぽいものが3つの要素から成り立っているという思想は、古代エジプトの「バー、カー、アク」とも似たところがあって面白い。それぞれ違う概念だから、これがこれに対応するって訳じゃないけど、テヨリアはちょっとバーっぽい。プラトンさんの「魂の三分説」?魂(ψυχή)の三つの要素がそれぞれ肉体の違う部位に宿るという点では近いようだけど、全然まったく違うやつですね。
web上で素晴らしい古典ナワトル語の学習教材が無料で公開されてたので、連休をいいことにちょっと触ってみたものの、スペイン語読むのしんど過ぎてあんまり理解できてないぜひゃっはー!
あと家の本棚で埃被ってた本と、ネットにある素晴らしい研究者様方の記事を拾い食いして書き殴ったページがこちらです。
基本、孫引きしかしてない&書いてる奴のお頭の問題で、いつも以上に怪しい記述が満載かもしれません。
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この文章書いてる人は、ナワトル語なんぞ分かるわけがありません。
アステカ文明に関してもあんまり知りません。
このページはあくまで『スト・ナ・クヱタ』CD等買った人向け、
いつもより更に信憑性のあやしい辞書もどきであって、
著作権侵害の意図はありません。が、もし怒られたら消えます。
参考資料
・"Lectura Del Náhuatl" https://site.inali.gob.mx/publicaciones/libro_lectura_nahuatl/pdf/lectura_del_nahuatl.pdf
・"Online Nahuatl Dictionary" https://nahuatl.wired-humanities.org/
・"Aztecs at Mexicolore" https://www.mexicolore.co.uk/aztecs/
・『ウィキペディア』内『ナワトル語』 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8A%E3%83%AF%E3%83%88%E3%83%AB%E8%AA%9E
・『C.S.スアレスの作品に見られる植民以前のメキシコの文化的要素 ―『人形になりたくて (Por querer ser muneco)』の場合―』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/annualofajel/18/0/18_105/_article/-char/ja/
・『世界の神話がわかる: 民族の聖なる神と人の物語を探究する』(日本文芸社 1997)