これも『花帰葬』の挿入歌。「泡沫〜手のひらで消える雪〜」の元ネタです。志方さんが歌ってるのは青字部分。相変わらずぐーぐる先生に頼りきりの浅学。

Fiocca la neve

Pietro Cimara(1887〜1967):作曲
Giovanni Pascoli(1855〜1912):詩

Lenta la neve fiocca, fiocca, fiocca.
Senti: una zana dondola pian piano.
Un bimbo piange, il piccol dito in bocca;

Canta una vecchia, il mento sulla mano.

La vecchia canta: intorno al tuo lettino
C'è rose e gigli, tutto un bel giardino.
Nel bel giardino il bimbo s'addormenta.
La neve fiocca lenta, lenta, lenta.


 原曲はピエトロ・チマーラさん作。タイトルの意味は「雪が降る」。おばあさんのセリフのところでちょっと明るくなるけど、歌詞が歌詞だから全体的に暗い曲調。
 ところで、これに関しては作曲者よりも作詞者の方が圧倒的に有名。元詩のタイトルは"Orfano(ルファノ:孤児)"で、ababccddの韻を踏むエンデカスィッラビ(11音節詩)。1891年初版の詩集"Myricae(ミューカエ)"の第4節CREATURE{クレアトゥーレ:(小さな)生き物たち}の4番目の詩。

 ジョバンニ・パスコリさんは、イタリアの詩人で古典文学者。フォルリ・チェゼーナ(ブーツの付け根のふくらはぎ側辺り)のサン・マウロ・ディ・ロマーニャ生まれ。彼の死後、サン・マウロ・ディ・ロマーニャがサン・マウロ・パスコリに改名したぐらいの偉人。色んな意味で松山出身の正岡子規っぽいお人だと勝手に思っている。
 少年時代、お父さんが何者かに殺されて生家を立ち退かざるを得なかったり、お母さんや兄弟姉妹が早世したりと薄幸で、大人になってからも社会主義に傾倒して投獄されたり、ファシズム台頭うんたらかんたら、色々大変な時代を生きた人。ラテン語やギリシア語に堪能で、英語詩をイタリア語に訳したりもしたインテリ。彼の詩調は憂鬱で悲観的ながら、素朴な自然や田舎の暮らしを題材にした抒情詩は美しく、後の詩壇に多大な影響を与えたそうな。英語版Wikipediaには、「彼は結婚せずにずっと姉妹と暮らしたんだ。シスコンだったって邪推する人もいるけど、ゲイだったのか単に結婚したくなかったのか良い出会いがなかったのか、そんな憶測は無意味だよね(編集)」とか、いらんことまで書いてある。「シスコン説」で暴露本(小説?)まであるらしいから、フォロー入れずにいられなかったのか。

※myricaeとは、ギリシア語由来のラテン語でタマリスク(御柳)。女性名詞複数主格。古代ローマの詩聖ウェルギリウスさん(Publius Vergilius Maro:BC.70〜19)をリスペクトしてるみたい。『牧歌(Bucolica)』第4歌に"Sicelides Musae, paulo maiora canamus. non omnis arbusta iuvant humilesque myricae.{シチリアのムーサたちよ、我らはいくらか高尚なことを歌う。取るに足らない葡萄園もタマリスクも、全て(の人々)を喜ばせない}"とあるから、パスコリさんはそれを踏まえて、「じゃあ私は取るに足らないタマリスクのことでも歌おうか」ってノリで詩集にこんなタイトルをつけたとか。

ンタ ーヴェ フィッカ フィッカ フィッカ
Lenta la neve fiocca, fiocca, fiocca.
副詞 冠詞 名詞 自動詞(原形:fioccare)
ゆっくりと (それは)降る、舞い落ちる
ゆっくりと 雪は舞う 舞う 舞う

ンティ ウナ ーナ ンドラ ーノ
Senti: una zana dondola pian piano.
他動詞(原形:sentire) 不定冠詞 名詞 自動詞(原形:dondolare) 形容詞 形容詞
(君が)聞け (それが)揺れ動く 少しずつ ゆっくりと
聞いて 揺り籠が とても静かに揺れ動くのを

zanaはこの場合「揺り籠」。ザーナ?ツァーナ?
"pian(o) piano"で「非常にゆっくりと」。

ウン ンボ ンジェ イル ッコル ディート イン ッカ
Un bimbo piange, il piccol dito in bocca;
不定冠詞 名詞 自動詞(原形:piangere) 冠詞 形容詞 名詞 前置詞 名詞
赤ん坊 (それが)泣く 小さな 〜の中に
小さな指を口に(くわえて) 赤ん坊が泣いている

piccoloがトロンカメント。「小さい」の他に「貧しい」という意味もある。
「泡沫」では詩形?でpicciol(ッチョル)。

ンタ ウナ ヴェッキア イル ント スッラ ーノ
Canta una vecchia, il mento sulla mano.
自動詞(原形:cantare) 不定冠詞 名詞 冠詞 名詞 縮約冠詞 名詞
(それが)歌う 老女 su la 〜の上に
歌う 老女が 手の上に顎(をのせて)

ヴェッキア ンタ インルノ アル トゥオ レッティーノ
La vecchia, canta; intorno al tuo lettino
冠詞 名詞 自動詞(原形:cantare) 副詞 縮約冠詞 所有形容詞 名詞
老女 (それが)歌う 周りに a il 〜で 君の ベビーベッド
老女は歌う 「君のベビーベッドの周りに

最初、文の繋がりがさっぱりだったけど、そうか・・「;」以降はセリフになるのか。

チェ ーゼ ッリ トゥット ウン ジャルディーノ
C'è rose e gigli, tutto un bel giardino.
副詞+自動詞(原形:essere) 名詞 接続詞 名詞 名詞? 不定冠詞 形容詞 名詞
ci è ここに(それ)がある バラ(複) 〜と ユリ(複) 全部 美しい
そこにバラとユリがある 美しい庭が全て」

とても・・詩的。直訳しようとすると日本語がついていかない。

ネル ジャルディーノ イル ンボ サッドルンタ
Nel bel giardino. il bimbo s'addormenta.
縮約冠詞 形容詞 名詞 冠詞 名詞 再帰動詞(原形:addormentarsi)
in il 〜の中で 美しい 赤ん坊 それは眠る(それ自身を眠らせる)
美しい庭の中で赤ん坊が眠る

addormentarsiは他動詞addormentareの再帰動詞形。

ーヴェ フィッカ ンタ ンタ ンタ
La neve fiocca, lenta, lenta, lenta.
冠詞 名詞 自動詞(原形:fioccare) 副詞
(それは)降る、舞い落ちる ゆっくりと
雪は舞う ゆっくり ゆっくり ゆっくりと


さて、意訳してみよう。

雪が降る ちら ちら ちらと ゆっくりと
耳を澄ませて ゆうら ゆうらと 揺り籠が揺れる
赤ちゃんが泣いている 小さな指をくわえて
おばあさんが歌う 手に顎をのせて
おばあさんは歌う “おまえの小さなベッドの周りには
バラやユリが一面に咲いた きれいなお庭があるんだよ”
きれいなお庭で 赤ちゃんは眠る
雪は舞う ひら ひら ひらと

 みなしごの赤ちゃんにおばあさんが子守歌を歌う場面。・・鬱だ。花帰葬だと・・やっぱり鬱だ。

大丈夫だと思うけど・・著作権的に駄目なら消します。


背景素材をお借りしました

Libri online : http://www.pelagus.org/it/libri/
Giovanni Pascori⇒MYRICAE, di Giovanni Pascoli-Pagine 3
詩は↑のサイト様より。