Istoria~Kalliope~ ギリシア語(ギリシャ語)メモ.おまけ
神統記 Θεογονία |
Μουσάων Ἑλικωνιάδων ἀρχώμεθ᾽ ἀείδειν,
αἵ θ᾽ Ἑλικῶνος ἔχουσιν ὄρος μέγα τε ζάθεόν τε
καί τε περὶ κρήνην ἰοειδέα πόσσ᾽ ἁπαλοῖσιν
ὀρχεῦνται καὶ βωμὸν ἐρισθενέος Κρονίωνος·
ヘリコン山の詩歌女神たちの賛歌から歌いはじめよう
彼女たちは ヘリコンの高く聖い山に住み
足どりも優しく舞い踊るのは 菫色した泉のほとり
クロノスの力つよい御子(ゼウス)の祭壇の辺
(『神統記』 1984 岩波文庫:P9より引用)
通常版、特装版共に表紙にあしらわれた箔押しきらきらギリシア語は、ヘーシオドスさんによって書かれた『神統記(Θεογονία)』ヘクサメトロス(六歩格)1022行の冒頭4行です。紀元前8世紀頃の、古典どころではなく古いギリシア語です。
特装版では筑摩書房の邦訳が引用されてたので、同じ人の訳だけどちょっとばかり違う岩波文庫の邦訳をご紹介。
以下逐語訳的な何か。古典再建音っぽいルビもつけてみたけど、正直適当。一応カナ読みをヘクサメトロスの韻律っぽく区切ってみました。たーたた・たーたた・たーたた・たーたた・たーたた・たーたー♪ってのが基本のリズム。いつも適当に読んでるんで区切りがおかしいかもしれない・・
※母音の上の´は、現代語にもある鋭アクセント。これがついてるところを高く発声する。逆向きの`は、低く発声する重アクセント。単語本来の鋭アクセントが文中で高くならないところにつく。~は、長母音か二重母音につく曲アクセントで、「一旦上がってぐんと下がる」音。
※語頭の母音についてるアポストロフィみたいな᾿は無気記号。母音をそのまま読む記号。逆向きの῾は有気記号。[h]をつけて発音する。
ムーサー オーネリ コーニア ドーナル コーメタ エィディン | |||
Μουσάων | Ἑλικωνιάδων | ἀρχώμεθ᾽ | ἀείδειν, |
固有名詞 | 固有名詞 | 動詞(原形:ἄρχω) | 動詞(原形:ἀείδω) |
ムーサたちから | ヘリコニアデスから | (私たちが)始めよう | 歌うこと |
ムーサたち、ヘリコーンの方々(のことから)歌い始めよう |
・Μουσάων(ムーサーオーン)は、女性固有名詞Μοῦσα(ムーサ)の複数属格。
・Ἑλικωνιάδων(ヘリコーニアドーン)は複数の女性固有名詞Ἑλικωνιάδες{ヘリコーンの者(女)たち}の属格。
・ἀρχώμεθ᾽ (アルコーメト)は自・他動詞ἄρχω(最初になる、始まる、支配する)の接続法中動態現在一人称複数形ἀρχώμεθαの語末母音省略形。この場合は「私たち」に対する勧誘、勧奨。属格支配の動詞(目的語は属格になる)。
・ἀείδειν(アエィデイン)は動詞ἀείδω(歌う、讃える、騒ぎ立てる、鳴く)の不定法能動現在形。"ἀρχώμεθ᾽ ἀείδειν"で「(私たちが)歌い始めよう」。
詩人がムーサたちに向かって「さあ歌いましょう、まずはあなたたちのことから」って感じか。
ハィテリ コーノセ クースィノ ロズメガ テズダテ オンテ | ||||||||
αἵ θ᾽ | Ἑλικῶνος | ἔχουσιν | ὄρος | μέγα | τε | ζάθεόν | τε | |
代名詞 | 固有名詞 | 動詞(原形:ἔχω) | 名詞 | 形容詞 | 接続詞 | 動詞 | 接続詞 | |
彼女たちは | ヘリコーンの | (それらは)持つ | 山を | 高い | そして | 聖なる | そして | |
彼女らはヘリコーンの高く聖なる山に住み |
・αἵ θ(ハイト)は、関係代名詞または指示代名詞ὅστεの女性複数主格形。詩文でὅς(that, who, he/she/it)やὅστις(whoever, anything which)と同じように使われるらしい。
・Ἑλικῶνος(ヘリコーノス)は男性固有名詞Ἑλικών(ヘリコーン)の属格。地名。
・ἔχουσιν(エクースィン)はhaveっぽい他動詞ἔχωの直説法能動現在三人称複数形。
・ὄρος(オロス)は「山、丘」を意味する中性名詞の単数主格か対格で、ここでは対格。
※σ(ς)は有声子音の前で[z]音。
・μέγα(メガ)は形容詞μέγας(大きな、偉大な、優れた、高い)の中性単数主格形か対格形。
・τε(テ)は接続詞。τε~τε~といくつも繋げることができる。καίとほぼ同じ意味だけど、より結びつきの程度が弱いらしい。
・ζάθεόν(ズダテオン/ッザテオン)は形容詞ζάθεος(非常に神聖な、聖なる)の中性単数主格形または三性全ての単数対格形。
※ζは二重子音。[zd]とか[dz]音。
カィテペ リクレー ネーニオ エィデア ポッサパ ロィスィン | |||||||
καί | τε | περὶ | κρήνην | ἰοειδέα | πόσσ᾽ | ἁπαλοῖσιν | |
接続詞 | 接続詞 | 前置詞 | 名詞 | 形容詞 | 名詞 | 形容詞 | |
そしてまた | ~の周りで | 泉(を) | 菫色の | 足(複)で | 優しい | ||
そして 軽やかな足取りで 菫色の泉の周りで |
・καί(カィ)は英語のandやevenっぽい接続詞または副詞。καί τεと繋げるのは詩に特有の表現らしい。
・περί(ペリ)(~の周りで、~について)は属格か与格か対格につく前置詞。
・κρήνην(クレーネーン)は女性名詞κρήνη(泉)の単数対格。
・ἰοειδέα(イオエィデア)は形容詞ἰοειδής(菫のような、紫色の)の男性女性単数対格形(または中性複数主格形か対格形)。
ホメーロスさんも海の色を喩えてこの形容詞を使っている。(『オデュッセイアー(上) 呉茂一訳』 岩波文庫 1971では「菫の色の海原」という表現になっている)。
・πόσσ᾽(ポッス)は男性名詞πούς(足、脚)の複数与格詩形?πόσσιの語末母音省略形。
・ἁπαλοῖσιν(ハパロイスィン)は形容詞ἁπαλός(タッチの柔らかい、優しい)の男性または中性複数与格形。
オルケゥン タィカィ ボーモネ リステネ オスクロニ オーノス | |||||
ὀρχεῦνται | καὶ | βωμὸν | ἐρισθενέος | Κρονίωνος· | |
動詞(原形:ὀρχέομαι) | 接続詞 | 名詞 | 形容詞 | 固有名詞 | |
(それらは)踊る | そして | 祭壇(を) | 強大な | クロノスの息子の | |
また 強大なるクロノスの息子の祭壇の周りで 踊る |
・ὀρχεῦνται(オルケゥンタィ)は、異態動詞ὀρχέομαι(踊り続ける、踊る)の直説法現在三人称複数形。
・βωμόν(ボーモン)は男性名詞βωμός(高くなった壇、基盤)の単数対格。ここにもπερὶがかかる。
・ἐρισθενέος(エリステネオス)は形容詞ἐρισθενής(非常に強い、強大な)の三性全ての単数属格形。
・Κρονίωνος(クロニオーノス)は男性固有名詞Κρονίων{クロノス(Κρόνος)の息子}の単数属格。要するにゼウスのこと。
この文章書いてる人はド素人です。
ギリシア語は現代も古典もよく分かっとりません。
古代のイオニア詩形なんぞ分かってたまるか!
主要引用・参考資料
1.『神統記』(岩波文庫 1984)
紀元前8世紀の詩人ヘーシオドス(Ἡσίοδος)さんの著作テオゴニアー(Θεογονία)の邦訳版。ギリシア神話に登場する神々の系譜を壮大に物語る。廣川洋一さんの訳。注釈が非常に充実してる。古代ギリシア文学に占める位置としては日本文学の古事記に近いかもしれない。と言っても古さが段違い。
2."Perseus Digital Library"
アメリカ、タフト大学の提供でお送りするデジタル・データベース。ギリシアやラテンの古典文学に強い。原文やら英語訳やら、有名な古典作品があれもこれも無料で検索し放題、読み放題(読めればの話orz)という素晴らし過ぎる代物。壺絵やコインの画像もある。原文の単語をクリックすると別窓で希英辞書が開くので、それはもう助かる。たまに間違ってるけど。今回も大いに活用させて頂きました。
3."An intermediate LIDELL AND SCOTT'S Greek-English Lexicon"(Oxford
Univ Pr. 1945 7th Edition)
古典ギリシア語→英語辞書。