2007年9月のお話ですが、花帰葬の前奏コーラスのイタリア語について、Woodnote(管理人の日常語り)にかなり間違った聞き取り歌詞を書いてたら、以下の詩が元ネタだとメールを下さった方がいました。
 時の流れの速い昨今ではもう昔のことですが、その節はOrpheeさん、本当にありがとうございました。
 あの頃から知ってる人は知ってた志方あきこさんですが、年々知名度が上がリ続けてますね。
 歌姫様の人気に肖って、こんなしょぼいサイトも少しは同士の皆様のお役に立てればいいんだけど・・なんてことを考えてるかと言えばそーでもなく、基本的には自己満足なサイトの自分勝手な管理人で恐れ入りますすみません。
 繰り返しますが、イタリア語にはあんまり自信がありません。間違い指摘大歓迎。
 

Nevicata

Ottorino Respighi(1879〜1936):曲
Ada Negri (1870〜1945):詞

Sui campi e sulle strade
Silenziosa e lieve,
Volteggiando, la neve
Cade.

 
Danza la falda bianca
Ne l'ampio ciel scherzosa,
Poi sul terren si posa
Stanca.

 
In mille immote forme
Sui tetti e sui camini,
Sui cippi e nei giardini
Dorme.

 
Tutto dintorno è pace:
Chiuso in oblio profondo,
Indifferente il mondo
Tace...

 
Ma ne la calma immensa
Torna ai ricordi il core,
E ad un sopito amore
Pensa.

 アーダ・ネグリさんの詩。1921年、ミラノにて。オットリーノ・レスピーギさんの曲の歌詞として有名。
 ネグリさんはイタリアのローディ(ブーツの付け根の真ん中辺り)生まれの詩人で、1940年にはイタリア王立アカデミー初の女性会員になった人。はい、やっぱりぐーぐる先生に聞いただけです。
 四行詩の押韻構成はabba。タイトルはカタカナ読みでネヴィカータ。意味は「降雪」。
 志方さんが花帰葬の前奏コーラスで歌ってるのが、ピンク色の部分、Nevicata〜Origine〜で歌ってるのが、水色の部分です。
 それと玄冬(Bonus track)またの名を魔王玄冬でも、緑色の第3詩節をメインに歌われています。気付かんかった・・
 これに関しちゃ"il mondo tace..."から始まって"Silenziosa"とか"Stanca"とか、第1〜第4詩節までのところどころがコーラスに採用されてるんだけど、聴き取り難いこと聴き取り難いこと・・


スイ ンピ スッレ ストーデ
Sui campi e sulle strade
縮約冠詞 名詞 接続詞 縮約冠詞 名詞
su i 〜の上に 田園(複) そして su le 〜の上に 道(複)
田園の上に 道の上に

男性名詞campoは英語のfield。
農村とか広場とか背景とか戦場なんて意味もあるけど、とりあえず一番無難な訳を選択。

スィレンツィーザ ーヴェ
Silenziosa e lieve,
形容詞 接続詞 形容詞
静かな そして 軽い
静かで軽い

形容詞は女性形の名詞を修飾する時の形。
次のla neveにかかる。

ヴォルテッジャンド ーヴェ
Volteggiando, la neve,
自動詞(原形:volteggiare) 冠詞 名詞
旋回し、そして
雪が舞い、

volteggiandoはジェルンディオ。

ーデ
Cade,
自動詞(原形:cadere)
(それが)落ちる
落ちる

ンツァ ファルダ ンカ
Danza la falda bianca
自動詞(原型:danzare) 冠詞 名詞 形容詞
(それが)踊る 薄片 白い
白い薄片が踊る

ンピオ チェール スケルツォーザ
Ne l'ampio ciel scherzosa,
代名詞 冠詞+形容詞 名詞 形容詞
それを 広い おどけた
広い空におどけるそれは

cieloのoがトロンカメント。ampioは形容詞だけど名詞の前に来てる。
scherzosoじゃなくて-aってことは、この形容詞は男性名詞cielじゃなくてla faldaにかかるのか?
(追記:Ne l'ampioのところがNell'ampioになっているテキストもありますね。
 nell'はin iの縮約冠詞で、こちらの場合「広い空中におどけて」という意味になります。)

スル テッーン スィ ーザ
Poi sul terren si posa
副詞 縮約冠詞 名詞 再帰代名詞 他動詞(原形:posarsi)
それから su il 〜の上に 地面 自分自身を (それは)置く
やがて 大地に(そっと)降りる。

terrenoのoがトロンカメント。
siがあったからとりあえずposaは他動詞的に直訳したけど、日本語としては変だな、これ。
再帰動詞だった・・posarsiの現在形三人称単数形でsi posa(それは静かに降る、降りる)。
(追記:ところで、Navigatoriaバージョンでは"si posa"のところが"per sé posa"と聴こえます。
 per séは「それ自体で」なので意味は同じ・・かな?)

ンカ
Stanca.
形容詞
疲れた
疲れて

イン ッレ インーテ フォルメ
In mille immote forme
前置詞 形容詞 形容詞 名詞
〜の中に 千の 不動の 形(複)
千の不動の形をとって

inの訳し方ってこれでいいかな。

スイ ッティ スイ ーニ
Sui tetti e sui camini,
縮約冠詞 名詞 接続詞 縮約冠詞 名詞
su i 〜の上に 屋根(複) そして su i 〜の上に 煙突(複)
屋根の上で 煙突の上で

スイ ッピ ネイ ジャルディーニ
Sui cippi e nei giardini
縮約冠詞 名詞 接続詞 縮約冠詞 名詞
su i 〜の上に 石碑(複) そして in i 〜の中に 庭(複)
石碑の上で 庭で

cippiは標識という意味もあります。

ルメ
Dorme.
自動詞(原形:dormire)
(それは)眠る
眠る

主語はla neve(la falda bianca)。

トゥット ディンルノ ーチェ
Tutto dintorno è pace;
形容詞 名詞 自動詞(原形:essere) 名詞
全ての 周辺 (それは)〜だ 静寂
辺りは全て沈黙し

ーゾ イン オブーオ プロフォンド
Chiuso in oblio profondo,
形容詞 前置詞 名詞 形容詞
閉ざされた 〜の中に 忘却 深い
深い忘却の中に閉じ込められた

chiusoはchiudere(閉める)の過去分詞。
形容詞になって次のil mondoを修飾してるのか。

インディッフェンテ イル ンド
Indifferente il mondo
形容詞 冠詞 名詞
無関心な 世界
世界は 無関心に

ーチェ
Tace...
自動詞(原形:tacere)
(それは)黙る
黙る

ルマ インンサ
Ma ne la calma immensa
接続詞 代名詞 冠詞 名詞 形容詞
だが それで 平穏 無限の
だが 無限の平穏で

ルナ アイ ルディ イル ーレ
Torna ai ricordi il core,
自動詞(原形:tornare) 縮約冠詞 名詞 冠詞 名詞
(それが)戻る a i 〜に 思い出(複)
心は思い出を遡り、

coreはcuoreの詩形。
tornaするのはla calma immensaじゃなくてil coreだよな。

アドゥン ート ーレ
E ad un sopito amore
接続詞 前置詞 不定冠詞 形容詞? 名詞
そして 〜に 和らいだ
褪めた愛を

前置詞aは母音の前でadになります。
ここのsopitoは他動詞sopire(和らげる)あるいは再帰動詞形sopirsi(〜は緩和される)の過去分詞で、
chiusoと同じく形容詞的にamoreを修飾してると取ればいいの?だよな?

ンサ
Pensa.
自動詞(原形:pensare)
(それは)思う
思う

この述語に対する主語はやっぱりil coreだよな。


 新しい・・Se l'aura spiraだのSe bel rioだのに比べたら、イタリア語がすごく新しいよ!
 名詞がちゃんとイタリア語の辞書に載ってるし、辞書の意味だとおかしいってこともないし、語順もあんまり違和感ないよ!
 つーことで、意訳いきます。


田畑の上に 路の上に
音もなく 軽やかに
雪が舞い
そして落ちる

白い欠片が踊る
広い空に戯れて
やがて大地に降りてくる
遊び疲れて

思い思いに動きを止めて
屋根の上で 煙突の上で
墓碑の上で 庭で
眠りに就く

辺りは静寂に包まれて
深い忘却の中に鎖された
世界は無情に
押し黙る・・

けれど 果てしない静穏の中で
心は昔日に立ち返り
色褪せた愛のことを
思い出す


 雪の夜、温かい家の中で、聞こえるのは薪が爆ぜる音だけ。
 暖炉の脇で節くれ立った指を温める一人の老女。旧る年月が刻まれた顔もオレンジ色の光に照らされて美しく、窓の外にしんしんと降り積もる雪を見るともなしに、まどろんでいる。
 浅い夢の中、心に降り積もった思い出を一つ一つ取り上げている内、ふっと若き日の恋を思い出す。
 在りし日の情熱も痛みも、等しく時の中で薄れてしまった愛。それを大事につまみ上げ、温めて、また心の奥にそっとしまい込む。

 そんな情景を想像しませんか?
 
 
 話は変わりますが、私、W.B.Yeats(ウィリアム・バトラー・イェイツ)先生の"When You are Old(邦題:あなたが年をとって)"という詩が大好きなんですよ。ある男性が憧れを抱く女性に向けて「あなたが年を取ったときに読んでおくれ」というポエムなんですが、私の中でこのネグリさんの詩が物凄くリンクしちゃって、もう堪らん訳ですよ!アンサー・ソング?アンサー・ポエム!
 イェイツ先生はアイルランドの詩人で、1865年生まれ、1939年没。イタリアに滞在した時期はあったけど、Nevicataが書かれた後だし、ネグリさんと接触する機会はなかっただろうな、うん。"When You are Old"の元ネタは古フランス詩なので、ネグリさんもそちらはご存知だったかもしれないけど、別にその詩と関連付けてNevicataを書いた訳じゃないだろうし、完全に私の妄想なんですが。
 まぁ要するに、イェイツ先生いいですよー。英語詩は勿論素晴らしいけど、加島祥造さんの邦訳も秀逸なんで、是非一度読んでみて下さいねー。という宣伝でした、まる たぶんネットにも転がってる。
 
 
 ※Pierre de Ronsard(1524〜1585) "Quand vous serez bien vieille..." お名前はピエール・ドゥ・ロンサールと読む。タイトルは「あなたがとっても年を取った時に・・」って意味。
   イェイツ先生はこの詩を英訳して紹介したつもりだったらしいけど、「別物じゃん、翻訳っつーかあなたの代表作だよ」との呼び声が高い。

 
 
 あれ?ここって志方さんのファンサイトじゃなかったっけ?
 ・・え、ええと・・花帰葬の世界観にも合いますよねっ!なんかこう、雪降ってて切ない感じが、ね!
 Nevicata〜Origine〜は、引用部分だけだと本当に花帰葬世界だし。ちなみにオリージネっつーのはこの場合「始まり」って意味で、箱庭における、まさに「終焉の始まり」ってことですよね。この詩を選んでアレンジした志方さん(イモトさんかもしれないけど)のセンスは最高ですよね!
 ・・とお茶を濁してみる。
 
 



しつこいようですが、臆病者です。これだけ古けりゃ大丈夫だと思うけど、著作権的にヤバイとなったら消します。


背景素材をお借りしました

http://www.karadar.com/
Lieder⇒Respighi, Ottorino (1879-1936)
歌詞は↑のサイト様より。