Lilium ラテン語メモ
依頼物

 知人より、
 「おい、そこの社会不適合者。おまえに名曲を教えてやろう。ありがたく思え。気に入ったなら訳してみれ。気に入らんワケないよな?別に読み方なんかつけなくてもいいんだからねっ!」
 と布教されたもんで、
 「そんな萌えないつんでれはいらない・・」
 とぼやきつつ、手を出してみました。元ネタはラテン語聖書。つーか聖歌。黒字ルビが歌い手、野間久美子さんの発音寄りにつけたカナ、青字ルビが私にとって一番馴染みのある古典式発音寄りのカナです。長母音記号は勝手につけました。

 訳してから、「訳見つけたからもういいや」とか言われたけど・・気にしないもん・・
 (追記:自宅にあったベネディクト派修道院合唱団の唄うグレゴリオ聖歌のCDを2枚ほど発掘して聴いてみたけど・・ドイツとスペインじゃ、全然ラテン語の発音違うな、やっぱり。You tubeでイタリアの修道士たちが唄ってるの聴くと、これまた違うし。だいたい自国語風に発音する欧米事情はともかくとして、日本でラテン語歌う人は基本的にイタリア風の発音を手本にしてるもんだと思ってたけど、映画音楽に影響受けて英語っぽく読む人もいるし、ドイツオペラが好きな人は当然そっち寄りだし、日本におけるラテン語発音事情は思いの外カオスだと分かった。)


Os iusti meditabitur sapientiam,
Et lingua eius loquetur iudicium.


Os iusti-Gradualis(昇階唱 正しき者の唇は)
Vulgata Psalmus 37-30(ラテン語共通訳聖書 詩篇 第37篇 第30行)

オースィーウスティ メディータビリトゥ サピエンティア
Os iusti meditabitur sapientiam,
ユースティ メディタービトゥ サピエンティア
名詞 形容詞 (異態)他動詞(原形:meditor) 名詞
口は 公正(なる者)の (それは)準備するだろう 叡智を
公正なる者の口は叡智を準備するものである。

ōsは第3変化複子音ss幹中性名詞単数主格。原意は「くちばし」。「顔」とか「言葉」なんて意味もある。
jūstiは第1第2変化形容詞jūstus(正当な、公正な)の中性属格形。ここでは名詞化。
 jとiを区別しないのは、iが半母音か母音かはっきりしなかった古い時代の書き方。古典時代はみんなI(小文字もなかった)。いつ頃からか母音はI、子音はJと表記するようになった。この場合もiの方が正式だけど、辞書はjで引かないと単語が出て来ないぞ。
meditābiturは第1活用異態動詞meditor(反省する、熟慮する、準備する)の直説法(未完了)未来三人称単数形。ラテン語の未来形は単純に未来のことを語る用法(〜するだろう)、普遍的な物事を語る用法(〜するものだ)がある。この場合は後者。
 異態動詞(verba dēpōnentia)とは、見かけは受動態なのに能動態の意味を持つ動詞のこと。
sapientiamは第1変化女性名詞sapientia(賢明、叡智)の単数対格。

リングァ エーイウ ロクェートゥ インディスィウ
Et lingua eius loquetur indicium
リングァ エーイウ ロクェートゥ インディキウ
接続詞 名詞 指示代名詞 (異態)自動詞(原形:loquor) 名詞
そして 舌は その (それは)語るだろう 証拠を
そして、その(公正なる者の)舌は証拠を語るものである。

etは無変化の接続詞。
linguaは第1変化女性名詞単数主格。原意は「舌」。「言葉」という意味でも使われる。
ēiusは指示代名詞is,ea,id(彼の、彼女の、それの)の、(この場合は中性)単数属格で、iustiを指す。
loquēturは第3活用異態動詞loquor(話す)の直説法(未完了)未来三人称単数形。
indiciumは第2変化中性名詞単数主格か対格。この場合は対格。「申告、告訴、証拠」などの意味がある。
 元ネタ聖書では、ここはiudicium(jūdicium)。同じく第2変化中性名詞単数対格で、意味は「採決、洞察、先見」。

意訳すると、
『公正なる者の口は熟慮の末に開かれ、その舌は確たる証を語る』
って感じ?

Beatus vir, qui suffert tentationem,
Quoniam cum probatus fuerit accipient coronam vitae.

Alleluia, Beatus vir qui suffert(アレルヤ 試練に耐うる者は幸いなり)

Beatus vir, qui suffert tentationem, quia, cum probatus fuerit,
accipiet coronam vitae, quam repromisit Deus diligentibus se.
Vulgata Epistula Iacobi 1-12(ラテン語共通訳聖書 ヤコブの手紙 第1章 第12行)

 ウルガータと微妙に言い回しが違うのは、それより古い時代のラテン語聖書を下敷きにした聖歌だから?

ベアトゥ ウィ クィー スッフェルト テンターティオネ
Beatus vir, qui suffert tentationem,
ベアートゥ ウィ クィー スッフェルト テンターティオーネ
形容詞 名詞 関係代名詞 他動詞(原形:sufferō) 名詞
幸福な 〜であるところの(彼) (それは)耐える 試練に
試練に耐えるのは幸福な人(男)。

beātusは第1第2変化形容詞男性単数主格形。
virは第3変化男性名詞単数主格。
quīは関係代名詞男性(この場合は単数)主格形。
suffertは第3活用他動詞sufferō(耐える、忍ぶ、支える)の直説法(未完了)現在三人称単数形。
tentātiōnemは第3変化n幹女性名詞tentātiō(試験、攻撃、誘惑)の単数対格。

クォニク プロバーテ フェリ アッチピエン コローナ ヴィータエ
Quoniam cum probatus fuerit accipient coronam vitae.
クォニア プロバートゥ フエリ アッキピエン コローナ ウィータエ
接続詞 接続詞 他動詞(原形:probō) 動詞(原形:sum) 他動詞(原形:accipiō) 名詞 名詞
なにしろ〜だから 〜の際に (彼が)正しいと認められるだろう (それらは)受け取るだろう 王冠を 生命の
なにしろ、彼が正しいと認められるであろうその時に、彼らは命の王冠を受け取るのだから。

quoniam(quon-jam)は接続詞。
cumは直説法に繋がって時を示す接続詞。
probātusは第1活用他動詞probō(試す、正しいと認める)の完了分詞男性単数形。
fueritは英語のbeに当たる不規則動詞sumの直説法未来完了三人称単数形。ここではprobātusと共に直説法受動未来完了三人称単数男性形を作っている。
accipientは第3活用他動詞accipiō(受け取る、聞く)の直説法(未完了)未来三人称複数形。何故に複数形なの?
corōnamは第1変化女性名詞corōna(花環、冠)の単数対格。
vītaeは第1変化女性名詞vīta(生命、人生)の単数属格。

『試練に耐える人は幸いである。その正しさが認められた暁には、命の冠を授かるのだから』

Kyrie, fons bonitatis
Kyrie, ignis divine, eleison.


Kyrie fons bonitatis-Tropus(トロープス 善きことの泉なる主よ)

キリエ フォン ボーニタティ
Kyrie, fons bonitatis
キリエ フォーン ボニターティ
名詞 名詞 名詞
主よ、 泉よ 善の
主よ、善の泉よ

kyrieκύριε)はギリシア語。男性名詞κύριοςキュリオス(主人)の単数呼格。古典風には「キュリエ」、現代風には「キリエ」と発音する。現代語では、英語のMr.のように、男性に対する呼びかけにも普通に使われる。例えば、κύριε Ιωαννίδηキリエ   ヨアニズィで「(男性の)ヨアニズィスさん」。
 ラテン語に訳すなら、第2変化男性名詞dominus(主人)の呼格でdomineドミネ
 ラテン語の文中にkが出て来たら、ほぼギリシア語由来と思って間違いない。
fōnsは第3変化複子音nt幹男性名詞の単数主格か呼格。ここでは呼格。
bonitātisは第3変化s幹女性名詞bonitās(善、親切、温情)の単数属格。

キリエ イグニ ディヴィネ エレイソン
Kyrie, ignis divine, eleison.
キリエ イグニ ディーウィーネ エレイソン
名詞 名詞 形容詞 他動詞(原形:ἐλεέω
主よ、 火よ 神の (君が)同情しろ
主よ、神の火よ、哀れめ

ignisは第3変化i幹男性名詞の単数主格か呼格か属格。ここでは呼格。
dīvīneは第1第2変化形容詞dīvīnus(神の、神の如き)の男性単数呼格形。
eleisonἐλέησον)もギリシア語。他動詞ἐλεέωエレエオー(哀れむ)の命令法能動アオリスト相二人称単数形。古典風には「エレエーソン」、現代風には「エレイソン」と発音する。アオリスト相っつーことは単に「哀れめ」であって、「哀れみ続けろ」ではないらしい。
 ここもラテン語にするなら、第2活用異態動詞misereor(〜を哀れむ、同情する)の命令法(二人称)単数形でmiserēreミセレーレ

『主よ、善の湧き出ずる泉よ 主よ、聖なる焔よ 哀れみ給え』

O quam sancta, quam serena, quam benigna, quam amoena esse virgo creditur!
Per quam servitus finitur, posta coeli aperitur, et libertas redditur.
O castitatis lilium,
tuum precare filium, qui salus est humilium:

Ave mundi spes Maria-Sequentia(セクエンツィア めでたし、世の望みなるマリアよ)

オー クァ サーン クァ セレーナ
O quam sancta, quam serena,
オー クァ サーン クァ セレーナ
間投詞 副詞 形容詞 副詞 形容詞
おお 何と〜 神聖な 晴朗な
おお、何と崇高な、何と静穏な、

ōは、呼格につくことが多い間投詞。
quamは、この場合は感嘆を表す副詞。「どれほど〜、何と〜」。
sānctaは第1第2変化形容詞sānctus(神聖な、崇高な、純潔の)の女性単数主格か呼格形。
serēnaは第1第2変化形容詞serēnus(晴朗な、静穏な、喜ばしい)の女性単数主格か呼格形。澄み渡る青空のように晴れやかで清々しい様子を表す形容詞。

クァ ベニグナ クァ アモエナ エッセ ヴィルゴー クレーディトゥ
quam benigna, quam amoena esse Virgo creditur.
クァ ベニーグナ クァ アモエナ エッセ ウィルゴー クレーディトゥ
副詞 形容詞 副詞 形容詞 動詞(原形:sum) 名詞 動詞(原形:crēdō)
何と〜 恵み深い 優美な 〜であること 処女(よ) (それは)信じられる
何と恵み深く、何と優美な処女であると信じられていることだろうか。

benīgnaは第1第2変化形容詞benīgnus(好意のある、恵み深い、豊富な)の女性単数主格か呼格形。
amoenaは第1第2変化形容詞amoenus(魅力的な、優美な、愛すべき)の女性単数主格か呼格形。
esseは英語のbeに当たる不規則動詞sumの不定法現在形。ここでは(中性名詞)主格形の扱い。
virgōは第3変化n幹女性名詞単数主格か呼格。ここは・・どっちだ?ここでは頭が大文字で「処女マリア」のこと。
crēditurは自動詞にも他動詞にもなる第3活用動詞crēdō(任せる、信じる)の直説法受動(未完了)現在三人称単数形。う〜ん・・信仰告白的な意味合いなら、ここは別に訳す必要ないんかな。

『おお、かくも穢れなき、かくも晴朗なる、かくも恵み深き、かくも優美なる処女よ!』

オー クァ サーン クァ セレーナ
O quam sancta, quam serena,
オー クァ サーン クァ セレーナ
間投詞 副詞 形容詞 副詞 形容詞
おお 何と〜 神聖な 晴朗な
おお、何と崇高な、何と静穏な、

クァ ベニグナ クァ アモエナ オー カスティタティ リリウ
quam benigna, quam amoena, O castitatis lilium.
クァ ベニーグナ クァ アモエナ オー カスティターティ リーリウ
副詞 形容詞 副詞 形容詞 間投詞 名詞 名詞
何と〜 恵み深い 優美な おお 貞潔の ユリよ
何と恵み深く、何と優美な。貞潔の百合よ。

quam benigna, quam amoena,まではVirgoにかかる。
castitātisは第3変化s幹女性名詞castitās(貞潔、慎み)の単数属格。
līliumは第2変化中性名詞の単数主格か呼格か対格。ここでは呼格。
 キリスト教美術の世界では、ユリは受胎告知なんかのテーマにもよく描き入れられる聖母マリアのアトリビュート(表徴、持物)。「無原罪の御宿り」を示すため、ユリには雌しべがなかったりする。

『おお、かくも穢れなき、かくも晴朗なる、かくも恵み深き、かくも優美なる(処女よ!)おお、純潔のユリよ!』

キリエ フォン ボーニタティ
Kyrie, fons bonitatis
キリエ フォーン ボニターティ
名詞 名詞 名詞
主よ、 泉よ 善の
主よ、善の泉よ

キリエ イグニ ディヴィネ エレイソン
Kyrie, ignis divine, eleison.
キリエ イグニ ディーウィーネ エレイソン
名詞 名詞 形容詞 他動詞(原形:ἐλεέω
主よ、 火よ 神の (君が)同情しろ
主よ、神の火よ、哀れめ

『主よ、善の湧き出ずる泉よ 主よ、聖なる焔よ 哀れみ給え』

オー クァ サーン クァ セレーナ
O quam sancta, quam serena,
オー クァ サーン クァ セレーナ
間投詞 副詞 形容詞 副詞 形容詞
おお 何と〜 神聖な 晴朗な
おお、何と崇高な、何と静穏な、

クァ ベニグナ クァ アモエナ オー カスティタティ リリウ
quam benigna, quam amoena, O castitatis lilium.
クァ ベニーグナ クァ アモエナ オー カスティターティ リーリウ
副詞 形容詞 副詞 形容詞 間投詞 名詞 名詞
何と〜 恵み深い 優美な おお 貞潔の ユリよ
何と恵み深く、何と優美な。おお、貞潔の百合よ。

『おお、かくも穢れなき、かくも晴朗なる、かくも恵み深き、かくも優美なる(処女よ!)おお、純潔のユリよ!』


え?liliumにはいくつかバージョンがあるって?
知らんがな!預かった音源のことしか知らんがな!どれやの!?
一応聖書とか参照したけど、ド素人の訳やし!間違っとっても責任取れんけん!

参考資料
・『旧約聖書』(日本聖書協会 1955改訳)
・『新約聖書』(日本聖書協会 1954改訳)
・"La Santa Sede"内"Nova Vulgata" http://www.vatican.va/index.htm