NAMARIE クウェンヤ(上のエルフ語)メモ
The lord of the rings(指輪物語)より

 Amazonのおすすめにホイホイされた『ヨルオトヒョウホン』・・なにこれ素敵。早春賦好きだわ〜。みとせさんの澄んだお声だと特に凍てる空気と春待人のあたたかな昂揚感が同時に伝わってくるようで・・って、うひょおおぉお!?ちょ、おま、NAMARIEだと!?(←収録曲確認して買おうよ)なんつー不意打ちや。はぁはぁはぁ・・
 つーことで、みとせのりこさんが歌っていらっしゃるのが嬉し過ぎて、人工言語取り扱わずの自分ルールを無視して元ネタ語り。
 森の奥方にしては愛らし過ぎるお声(マイ・イメージ的に)ながら、可憐で素敵です。眠れぬ夜の文学少女が本棚から一冊取り下ろし、物語の情景を心に描きながらお気に入りの詩を口ずさんでみた・・とか、そんな静謐であったかい雰囲気(ビバ妄想)。

NAMARIE(Namárië)とは、
 20世紀(ひょっとしたら19世紀終わり)のある時、ジョン・トールキン君が、「どういう人々の暮らすどういう世界がどういう歴史を歩んだら、こーんな感じのこういうきれいな言葉が交わされるようになるのかな〜♪」みたいなことを考え始めました。この言語オタク伝承文学オタクここに極まるイギリス人が、考えて考えて一生涯ぶっ通して考え抜いた末に創造してしまったのが、遥か古代の地球(という設定の)「アルダ」。『ホビットの冒険』、『指輪物語』、『シルマリルの物語』など、近代ハイ・ファンタジーの原点と名高い作品群の舞台です。面白く、また素晴らしいファンタジー作品は数あれど、こと世界観の創り込みにおいて、トールキン・ワールドは未だどんな名作にも追随を許しません。

 エルフ語の詩歌「ナマリエ」は、『指輪物語』の第一部、旅の仲間篇にて登場します。この時代(第三紀終盤)の中つ国、ロスロリアンに住むエルフたち(ガラズリム)は、日常会話に「シンダリン(シンダール語)」を用いています。一方、ここで歌われた「クウェンヤ(上のエルフの言葉)」は、中つ国に暮らす大多数のエルフたちにとって伝承などのための古雅な言語であるとのこと(曰く、「エルフのラテン語」)。太古より生きる、上のエルフにしてロスロリアンの奥方であらせられるガラドリエル様が、フロドら旅の仲間一行を「さらば」と送り出す格調高い歌なのです。
 映画の話に脱線するけど、ケイト・ブランシェットのガラドリエル様パねぇ。アラン・リーの絵そのまんまや。イライジャ・ウッドのフロドを初見でブグローの描いたホメーロスの手を引く道案内の少年だと思ったのは、私だけ・・か。映画"The Hobbit"完成はいつになることやら。とりあえず撮影始まるとか。何年でも待つけどさ。


Namárië
Altariello nainië Lóriendesse

Ai! laurië lantar lassi súrinen,
yéni únótimë ve rámar aldaron!
Yéni ve lintë yuldar avánier
mi oromardi lisse-miruvóreva
Andúnë pella, Vardo tellumar
nu luini, yassen tintilar i eleni
ómaryo airetári-lírinen.

Sí man i yulma nin enquantuva?

An sí Tintallë Varda Oiolossëo
ve fanyar máryat Elentári ortanë,
ar ilyë tier undulávë lumbulë;
ar sindanóriello caita mornië
i falmalinnar imbë met, ar hísië
untúpa Calaciryo míri oialë.
Sí vanwa ná, Rómello vanwa, Valimar!
Namárië! Nai hiruvalyë Valimar!
Nai elyë hiruva. Namárië!

“The Lord of The Rings 50th Anniversary Edition The Fellowship of The Ring” (Harper Collins Publishers Ltd; 2005)P377〜378
“The Rord Goes Ever On”(Harper Collins Publishers 2002 New Ed.)P65〜67より

 ※上記左のフェアノール文字綴りは、トールキンさんの手書き表記を見ながらTengwarAnnatarフォントで打ちました。感嘆符の位置とか、装飾文字?を一部アルファベット表記に合わせて変えています。間違ってたらごめんなさい。テフタール(母音記号)"e"と"i"、"o"と"u"の使い分け方が、母音記号3種類のアラビア文字より腑に落ちない・・

タリ ィニエ ローリエンッセ
Altariello nainië Lóriendesse
固有名詞 名詞 固有名詞
Altariel's lament in Lórien
アルタリエルの 嘆き、哀歌 ロリアンにおいて
ロリアンにおけるアルタリエルの哀歌

Galadriel's lament in Lórien

Altarielloは固有名詞Altarielの属格。
 「輝く花冠をつけた乙女」Altariel(アルタリエル)は、シンダリンでGaladriel(ガラドリエル)と呼ばれる奥方のクウェンヤ名。テレリのクウェンヤではAlatáriel(アラターリエル)。〔参5〕
nainië(嘆き)は名詞。たぶん単数主格。
Lóriendesseは固有名詞Lórienの単数所格。
 Lórien(ローリエン)は、本来アマン(後述)の地にあるイルモ{ヴァラール(後述)の一人}の庭園の名。
 中つ国に渡ってきたガラドリエルが、夫ケレボルンと共に治める国にその名をつけたみたい。シンダール語の「花」loth(ロス)を冠して「花咲くローリエン」Lothlórien(ロスローリエン)とも呼ばれる。〔参5〕『指輪物語』シリーズでは「ロリアン」、「ロスロリアン」。


ラゥリエ ンタ ッスィ ーリネン
Ai! laurië lantar lassi súrinen,
間投詞 形容詞 動詞(lanta-) 名詞 名詞
Alas! golden fall leaves by the winds(wind-in)
ああ! 金の (〜らは)落ちる 葉(複)は 風(複)によって
ああ!葉たちは風によって金色に(輝き)落ちる。

Ah! like gold fall the leaves in the wind,
↑トールキンさんによる英語訳。作中ではフロドが西方(共通)語に訳した(ものをトールキンさんが英語訳した)ことになっている。

lauriëは形容詞laurëa(金色の)の複数形。金属の色じゃなく、光、特に日光の「金色」とのこと。〔参2〕英訳はlike gold。どうもこいつは副詞っぽく動詞lantarにかかってるみたい。
 ヴァリマール(後述)の地のことでもあり、ロスロリアンの地のことでもあり・・なのかな?
 ロスロリアンに生えるマルローン樹は、銀色の幹に金色の葉が繁る樹木。「おぼろな星明かりで見ると木々の幹は灰色をしており、風にゆらぐ葉は朽葉色がかった金色を帯びていました。」〔参4:『旅の仲間下2』 P46より引用〕。

lantarは動詞。語幹lanta-(落ちる)にアオリスト複数形語尾-arがついて「(〜らは)落ちる」。不特定の時制を表している。〔参7〕
lassiは名詞lassë(葉)の複数主格。風に散る黄葉が照り映える中つ国の秋のことをlasselanta(ラッセランタ)と呼ぶとのこと。〔参2〕
súrinenは名詞súrë(風)の複数具格。

イェーニ ウーーティメ ヴェ ーマ ダロン
yéni únótimë ve rámar aldaron!
名詞 形容詞 前置詞 名詞 名詞
long years uncountable as wings of trees
幾イェンは 数えられない(複) 〜のように 翼(複) 木々の
木々の翼のように数え切れない世紀

long years numberless as the wings of trees!

yéniは名詞yénの複数主格。yénとは、エルフにとって「世紀」のような時間単位らしい。〔参2〕1yénが144年とのこと。〔参3〕
únótimëは形容詞únótima(不可算の)の複数形。úが否定辞、nótが「数える」、imaが形容詞語尾。〔参2〕
rámarは名詞ráma(翼)の複数主格。前置詞とか後置詞とか、とにかく接置詞がつく名詞は単複だけ変化して格変化なし(全部主格)なんかな。
aldaronは名詞alda(木)の複数属格。

これは詩的な語順で、普通の語順にするとAi! lassi lantar laurië súrinen, yéni únótimë ve aldaron rámar!になるらしい。〔参2〕

「ああ!木の葉は金色に照り映えて風に散る 木々の翼の如く数え果せぬ幾千紀よ」

イェーニ ヴェ ンテ ヴァーニエ
Yéni ve lintë yuldar avánier
名詞 前置詞 形容詞 名詞 動詞(auta-)
long years like swift draughts have passed away
幾イェンは 〜のように 素早い(複) 一飲み(複) 過ぎた
幾世紀は素早い一飲みのように過ぎ去った。

The long years have passed like swift draughts

lintëは形容詞linta(素早い)の複数形。
yuldarは名詞yuldaの複数主格。
avánierは動詞。auta-(過ぎる)の完了形らしい。普通の活用なら頭に語幹母音をつけて完了形語尾iëをつけるとこだけど、こいつは不規則動詞みたい。〔参3〕

ミー ディ ッセ・ミルヴォーレヴァ
mi oromardi lisse-miruvóreva
?冠詞前置詞? 形容詞+名詞 形容詞+名詞
in the high-halls of sweet necter
〜の中で 高い宮殿 甘い蜜酒の有する
高き宮居で 甘い蜜酒の

of the sweet mead in lofty halls

oroは「高い、高貴な、上の」を表す形容詞だか接頭辞だか。
mardiは名詞mardë(ホール、広間)の複数主格。
lisseは「甘い」を表す形容詞だか接頭辞だか。
miruvórevaは名詞miruvórë(蜜酒)の所有格。yuldar(一飲み)にかかる。

アンドゥーネ ッラ ヴァ ルマ
Andúnë pella, Vardo tellumar
名詞 接置詞 固有名詞 名詞
West beyond Valda's domes
西方 向こうの ヴァルダの 天蓋(複)
西方の彼方で ヴァルダの天蓋

beyond the West, beneath the blue vaults of Varda

Andúnëは名詞。単数主格?
pellaは印欧語の前置詞みたいなの。「前置」じゃないけど。
 中つ国の西の果てには「アマン」と呼ばれる至福の地がある。人間には辿り着けない地。
Vardoは固有名詞Vardaの属格。
 「崇むべき者」ヴァルダは、ヴァラール(だいたいギリシア神話の神々のような存在)の一柱で、星々と星座の作り手。とんでもなく美しいお方。ヴァラールの王マンウェ(更に上位の唯一神はいるけど、アルダにおいてはだいたいギリシア神話の主神ゼウスみたいな立場)の妃でもある。エルフたちに最も敬愛される神格。シンダリンでの呼称は「星の女王」Elbereth(エルベレス)。〔参6〕
tellumarは名詞telluma(天蓋)の複数主格。

ッセン ティンティラ レニ
nu luini, yassen tintilar i eleni
接置詞 形容詞 関係代名詞 動詞(tintila-) 冠詞 名詞
under blue which-in twinkle the stars
〜の下 青い 〜であるところの(複) (〜らは)震える 星々が
星々の瞬く青い〜の下で 

beneath the blue/wherein the stars tremble

luiniは形容詞luinë(青い)の複数形。なんちゅう語順や。
yassenは関係代名詞yaの複数所格。
tintilarは動詞。語幹tintila-にアオリスト複数形語尾-arがついて「(それらは)震える」。tinweが星を指すらしいので〔参2〕、tintila-と言えばそれだけで星の瞬きをイメージする言葉なのかもしれない。不特定の時制で普遍的な出来事を表してるっぽい。
eleniは名詞elen(星)の複数主格。

オーリヨ ーリ・ーリネン
ómaryo airetári-lírinen.
名詞+所有代名詞 形容詞+名詞+名詞
of her voice by holyqueen'song
彼女の声の 神聖な女王の歌(複)によって
聖なる女王の、その歌声によって

in the song of her voice, holy and queenly.

ómaryaはómarya(彼女の声)の単数属格。óma(声)は名詞。rya(彼/彼女/それの)は三人称単数の所有代名詞。
airetáriは、aire(神聖なる)は形容詞。tári(女王)は名詞。本来はtárioと属格になるらしいけど、詩的にlírinenとくっついている。
lírinenは名詞。lírë(歌)の複数具格。

普通の語順にすると 、
Yéni avánier ve lintë yuldar lisse-miruvóreva mi oromardi Andúnë pella, Vardo nu luini tellumar, yassen tintilar i eleni ómaryo lírinen aire-tário.〔参2〕

「幾千紀は過ぎ去った 聖らなる女王の歌声に応え 星辰煌くヴァルダの蒼穹の下
西方の彼方の高き宮居で たちどころに飲み乾される甘い蜜酒のように」

ラゥリエ ンタ ッスィ ーリネン
Ai! laurië lantar lassi súrinen,
間投詞 形容詞 動詞(lanta-) 名詞 名詞
Alas! golden fall leaves by the winds(wind-in)
ああ! 金の (〜らは)落ちる 葉(複)は 風(複)によって
ああ!葉たちは風によって金色に(輝き)落ちる。

※みとせさんの歌では、ここに↑の繰り返しが入ります。


スィー エンクウァントゥヴァ
man i yulma nin enquantuva?
副詞 疑問代名詞 冠詞 名詞 人称代名詞 接頭辞+動詞(quat-)
Now who the cup for me will re-fill
今や 誰が 杯を 私のために 再び満たすだろうか
今や 誰が私のために杯を再び満たすだろうか? 

Who now shall refill the cup for me?

yulmaは名詞。ここは・・単数対格?
ninは一人称単数の人称代名詞ni(私)の与格。
en-(再び、また)は英語のre-のような接頭辞。quantuvaは動詞quat-(満たす)に未来形語尾uvaがついた形。
 アマンの地、ヴァリノール(後述)では、収穫祭の祝宴に全ての住民がタニクウェティル(後述)のイルマリン(後述)に集った。かつてヴァリノールに住んでいたガラドリエルも祝祭に参加しただろう。

「今や 誰が我がために杯を酌むであろう?」


アン スィ ティン ヴァ イオッセオ
An Tintallë Varda Oiolossëo
接続詞 副詞 固有名詞 固有名詞 固有名詞
For now kindler Varda from ever white
〜というのは、 今や ティンタルレ(灯す者)は ヴァルダは オイオロッセの/から
と言うのは、今や「灯す者」ヴァルダは、オイオロッセから

For now the Kindler, Varda, the Queen of the stars, from Mount Everwhite

Tintallë(ティンタルレ)は固有名詞主格。動詞tinta-(火を灯す)に女性形?接尾辞-llë(〜する者)をつけて「(星の)火を灯す者(女)」。これもtin-で始まるので、まずtinwe(星)を連想させる言葉なんだろう。
 ヴァルダの別称。シンダリンでは「星々を輝かせる者」Gilthoniel(ギルソニエル)となる。
Valdaは固有名詞主格。
Oiolossëoは固有名詞Oiolossë(オイオロッセ)の・・語尾は属格っぽいんだけど、英訳見る限り奪格?oio-(常に)がever-のような副詞だか接頭辞だか。lossëが名詞か形容詞で「雪、雪のような白」。「絶えず雪白」。
 属格だとすると、英語の方は分かり易く意訳的な表現で、「オイオロッセのティンタルレ・ヴァルダは〜」というのが直訳なのかもしれない。
 「雪消えぬ白き峯」オイオロッセは、「いと高き白き峰」Taniquetil(タニクウェティル)の最も高い峯。または単にタニクウェティルの別称。アマンの地、ペローリ山脈の最高峰にして、ヴァラールの王マンウェとヴァルダが暮らす「高き天の館」Ilmarin(イルマリン)がある。シンダリンでの呼称は「とこしえに白き山」Amon Uilos(アモン・ウィロス)。〔参6〕ギリシア神話のオリュンポス山みたいなもん。

ヴェ ファンヤ レンーリ ルタネ
ve fanyar máryat Elentári ortanë,
前置詞 名詞 名詞+所有代名詞 固有名詞 動詞(orta-)
like (white)clouds her two hands star-queen lifted up
〜のように 白雲(複) 彼女の両手 星の女王は 掲げた
星の女王は、その両の手を白雲のように掲げた

the Queen of the stars, from Mount Everwhite has uplifted her hands like clouds

fanyarは名詞fanya(雲)の複数主格。
máryatはmárya(彼女の手)の双数対格。má(手)は名詞。rya(彼/彼女/それの)は三人称単数の所有代名詞。
Elentári(エレンターリ)は固有名詞主格。elen(星)とtári(女王)はどちらも名詞。「星の女王」。
 言うまでもなくヴァルダのこと。
ortanëは動詞orta-(上げる、掲げる)に過去形語尾nëがついた形。

普通の語順にすると 、An sí Varda, Tintallë, Elentári ortanë máryat Oiolossëo ve fanyar,

イェ ティ ウンドゥーヴェ ブレ
ar ilyë tier undulávë lumbulë;
接続詞 形容詞 名詞 副詞+動詞(lav-) 名詞
and all roads down-licked (heavy)shadow
そして すべての(複) 途に なめるように広がり落ちた 影は
そして 全ての途に 影はなめるように広がり落ちた

and all paths are drowned deep in shadow;

ilyëは形容詞ilya(すべての)の複数形。
tierは名詞tië(路、行く手)の複数・・主格?向格?
undu-(下に)は副詞。lávëは動詞lav-(なめるように広がる)の過去形が語呂がいいように長母音化?
lumbulë(闇)は名詞。単数主格。

 かつて(二つの木の時代)、アマンはテルペリオン(銀の木)とラウレリン(金の木)の光によって照らされていたが、メルコール(モルゴス)とウンゴリアントがこれらを破壊し、二つの木の光を封じ込めたシルマリルの宝玉を奪って中つ国へと逃走した。宝玉の作り手フェアノールは、ヴァラールの許しを得ず、ノルドール・エルフらを率いてこれを追った。あまつさえ、この追跡のために同族であるテレリ・エルフらを殺害して船を奪った。
 この忌まわしい事件の後、マンウェの命を受けたヴァルダは、オイオロッセから両手を挙げて、岸辺と山々とを呑み尽くす深い影を湧き起こした。〔参2〕

普通の語順にすると 、ar lumbulë undulávë ilyë tier;〔参3〕

「と語りしは 今や灯す者ティンタルレヴァルダが 常雪の高き峰なる御坐より
星の女王エレンターリが その両の手を湧き立つ雲の如くに掲げ
遍く行路に深き影が垂れ込め」

スィンダーリッロ カィ ニエ
ar sindanóriello caita mornië
接続詞 形容詞+名詞 動詞(caita-) 名詞
and from grey country lies darkness
そして 灰色(エルフ)の国から (〜は)横たわる 闇は
そして 灰色の国から闇が横たわる

and out of a grey country darkness lies

sindanórielloは名詞sindanórië(灰色の国/灰色エルフの国)の単数奪格。sindar(灰色の、シンダール・エルフの)は形容詞。nórië(国)は名詞。
caitaは動詞caita-(横たわる)のアオリスト単数形。不特定の時制を表している。
mornië(闇)は名詞。たぶん単数主格。

ファンナ ースィエ
i falmalinnar imbë met, ar hísië
冠詞 名詞(+形容詞?) 前置詞 人称代名詞 接続詞 名詞
the upon many foaming waves between us two and mist
泡立つ波(複)に 〜の間に 私たち二人 そして 霧は
私たち(ガラドリエルとヴァルダ)の間に泡立つ波に そして霧は

on the foaming waves between us, and mist

falmalinnarは名詞falma(泡立ったもの)の複数向格・・だと思うんだけど、〔参2〕を見ると、li(多くの)が形容詞の可能性もある。だとすると、falmali-(多くの泡立ったもの)の向格?
imbëは一人称単数の人称代名詞ni(私)の与格。
metは一人称複数の人称代名詞me(私たち)の双数主格。独立した代名詞にも、動詞語尾代名詞と同じように包括表現(話し手を含む「私たち」)と除外表現(話し手を含まない「私たち」)の区別ってあるのかな?
 ここでは「ガラドリエルとヴァルダ」を指している、とのこと。〔参2〕
hísië(霧)は名詞。単数主格。
 二つの木が殺され、ラウレリンから生まれた果実アナール(太陽)とテルペリオンの花イシル(月)が世界を照らすようになった後、中つ国で悪意を滾らせるモルゴスの禍がヴァリノール(後述)に及ばぬよう、「ヴァリノール隠し」が行なわれた。「離れ島」Tol Eressëa(トル・エレッセア)の東の大海には惑わしの島々と暗闇が置かれ、中つ国からアマンの地への航海はほとんど不可能になった。霧に覆われた魔法の島々は船の行く手を阻み、島々に一歩でも立ち入った者は、世界の変わる日まで眠りに就くことになる。
 航海者エアレンディルがこの海域を突破し、彼の請願を聞き入れたヴァラールが「怒りの戦い」によってモルゴスを討ち果たした第一紀の終わり、ヴァラールに叛逆してアマンを去ったノルドール・エルフらは西方に戻ることを許されたが、ガラドリエルは海と至福の地を切望しながらも中つ国に留まることを選んだ。〔参6〕

ウントゥーパ カラルヨ ーリ イアレ
untúpa Calaciryo míri oialë.
接頭辞+動詞(tup-) 固有名詞 名詞 副詞
down-roofs Kalakirya's jewels everlastingly.
屋根のように覆っている カラキリヤの 宝玉(複)を 永遠に
永遠にカラキリヤの宝玉を覆い隠している

covers the jewels of Calacirya for ever.

untúpaは動詞untup-(覆い隠す)の現在形。un-(下に)は接頭辞。túpaは動詞tup-(覆う)の語幹が長母音化して現在形語尾-aがついた形。
Calaciryoは固有名詞Calacirya(カラキリヤ)の属格。cala(光)とcirya(谷間)で「光の谷間」。
 アマンのペローリ山脈の東西を繋ぐ唯一の峡谷。『指輪物語』では「カラキリヤ」だけど、『新版シルマリルの物語』(評論社 2003 田中明子訳)では「カラキルヤ」。
míriは名詞mírë(宝玉)の複数対格。
 二つの木の時代には、「至福の国に照り映える光は、光の道カラキルヤを通って溢れ出し、暗い波濤を金波銀波にきらめかせながら離れ島にまで達していた」〔参6:P116より引用〕。カラキリヤの緑の丘Túna(トゥーナ)に建つエルフの都Tirion(ティリオン)は、とりわけ美しく輝いていたとか。

普通の語順なら、
ar sindanóriello mornië caita i falmalinnar imbë met, ar hísië untúpa Calaciryo míri oialë.〔参2〕
ここはあんまり変わってない。

「灰色の国より湧き出でし闇は 我らの間に泡立つ波の上に横たわり
霧は永久にカラキリヤの宝玉を蔽い隠しているが故」

スィー ヴァンワ ナー ローッロ ヴァンワ ヴァリマ
vanwa ná, Rómello vanwa Valimar!
副詞 動詞? 助動詞? 名詞 動詞? 固有名詞
Now lost is [to one] from the East lost Valimar.
今や 失った 〜された? 東方から 失った ヴァリマールは
今や失われた 東方の地からヴァリマールは失われた

Now lost, lost to those of the East is Valimar!

vanwaは・・不規則動詞auta-(過ぎる、去る)の過去分詞なん?
は・・英語のbe動詞のようなコピュラ。英語の「be+過去分詞」と同じように受動態作ってるってことでいいの?
Rómelloは名詞rómen(東)の単数奪格。
Valimarは固有名詞主格。Vari(ヴァラールの)とmar(住処)で「ヴァラールの家」。
 ヴァリマールとは、アマンのペローリ山脈の西にあるヴァラールの王国ヴァリノールの都。ヴァリノールにはヴァラールやマイアール(ガンダルフがその一人。精霊だか仙人だかに近い叡智持つ存在)、ヴァラールを敬愛するヴァンヤール・エルフらが住んでいる。ややこしいけど、ヴァラールの王国の名前が「ヴァラールの国」Valinor(ヴァリノール)で、その首都がValimar(ヴァリマール)。Valmar(ヴァルマール)とも。〔参2、参6〕

「今や失われたのだ 東方よりヴァリマールは失われた!」

ーリ ナィ ヴァイェ ヴァリマ
Namárië! Nai hiruvalyë Valimar!
間投詞 助動詞? 動詞(hir-) 固有名詞
Farewell! (may) it be that thou wilt find Valimar.
さらば 〜であるように あなたは見つけるだろう ヴァリマールを
さらば!あなたがヴァリマールを見つけますように!

Farewell! Maybe thou shalt find Valimar!

Namáriëは「さらば」だけど・・。直訳するとどうなんだろう?〔参3〕によると、máriëは"goodness", "good"かstative verb "it is good"とのこと。名詞にbe動詞的なnáがついて単母音化したのか、それとも動詞(だとしたら完了形?)に↓のnaiのiが落ちたやつが頭について、「(あなたの前途が)良きものでありますように」みたいな意味かな?
Naiは、トールキンさんはmaybeという訳を当ててるけど、「たぶん」という意味よりも願望を表すと説明している。〔参2〕be動詞的なnáの変化形なのか?英語のmay的な助動詞?
hiruvalyëは動詞hir-(見つける)に未来形語尾uvaと二人称単数主格語尾lyëがついた形。
Valimar・・ここは対格か?

「さらば!汝がヴァリマールを見出さんことを!」

ナィ ルイェ ルヴァ ーリ
Nai elyë hiruva. Namárië!
助動詞? 助動詞? 動詞(hir-) 間投詞
Be it that even thou wilt find Farewell!
〜であるように あなたは 見つけるだろう さらば
あなたこそが見つけますように。さらば!

Maybe even thou shalt find it! Farewell!

elyëは二人称単数の人称代名詞主格。動詞の語尾につけることもできる代名詞をわざわざ独立させているのは、イタリア語やラテン語の代名詞が省略できるところで、あえて主語を明記して強調するのと同じ効果があるんだろう。
hiruvaは動詞hir-(見つける)に未来形語尾uvaがついた形。

「汝こそが見出さんことを さらば!」


下手なマイ訳文まとめ。

ああ!金色の木の葉が風に散る 木々の翼の如く数えおおせぬ幾千紀よ
幾千紀は過ぎ去った きよらなる女王の歌声に応え 星辰せいしんきらめくヴァルダの蒼穹そうきゅうの下
西方の彼方の高殿たかどので たちどころに飲み乾される甘い蜜酒の如く

今や 誰が我がために杯をむや?

常雪とこゆきの高き峰なる御坐みくらより  灯す者ティンタルレヴァルダが
星の女王エレンターリが 両の手を湧き立つ雲の如くに掲げ
あまねく行路に深き影が垂れ込め
灰色の国より湧き出でし闇が 我らの間に泡立つ波に横たわり
霧が永久とこしえにカラキリヤの宝玉をおおい隠したる 今
もはや失われたのだ 東方よりヴァリマールは失われた!
さらば!汝がヴァリマールを見出さんことを!
汝こそが見出さんことを さらば!

 "Namárië"は、5歩または6歩のアイアンブ(弱強格)、トロキー(強弱格)、アナペスト(弱弱強格)からなる韻律詩。音節の強弱で韻を作っています。「クウェンヤとして正確な発音」は、『指輪物語 追補編』(E-T)やトールキンさんご自身による朗読音源なんかを参照すべし・・などということは、トールキニアンには言わずもがなの蛇足ですね。"I sang of leaves, of leaves of gold,"から始まる共通語の詩(評論社の『文庫新版指輪物語』なら4巻目『旅の仲間 下2』のP131〜132)と合わせて、哀切の美しさに胸を打たれます。

 ところで、『ヨルオトヒョウホン』歌詞カードには、『J.R.R.トールキン作 瀬田貞二・田中明子訳 「指輪物語 旅の仲間」(評論社刊)より』とあります。他の歌い手さん方の"Namárië"はいざ知らず、みとせさんの「NAMARIE」に関しては、『アイ!ラウリエ ランタアル ラスシ スウリネン、イエニ ウノティメ ヴェ ラアマル アルダロン!〔以下略〕』と瀬田訳通りのカタカナで歌うのが正しいようです(文庫新版なら『旅の仲間 下2』のP143〜144です)。
 にも拘らず、瀬田訳と異なるカタカナ読みと訳をつける必要あんのか?と問われると・・まあ、いつも通りオタクの自己満足です、はい。

この文章書いてる人は、アルダの言語に関してド素人且つトールキニアンと自称するのもおこがましい程度のファンなので、
他の方々のすごい研究に頼っているにも関わらず、堂々と間違いを書いてるかもしれません。
怪しい記述は100%当方の責任です。ご注意を。

参考・引用資料
1.“The Lord of The Rings 50th Anniversary Edition” (Harper Collins Publishers 2005)
 J. R. R. Tolkien作、『指輪物語』英語原著。箔押しハードカバー箱入り。HarperCollins版50周年記念エディションの豪華装丁に惹かれて購入したら化粧箱から出し難いことこの上なかった三部作+ぶっといA Reader's Companionのセット。本そのものが宝物みたいで、飾っておくにはすごく綺麗だし、行間広くて読み易いし、地図やカラー絵も嬉しいんだけど、電車では読めません。普段読みにはやっぱペーパーバックだよなと思いつつ、結局これしか持ってない。

2.“The Rord Goes Ever On”(Harper Collins Publishers 2002 New Ed.)
 J. R. R. Tolkienさんと作曲家Donald Swannさんの共著となる楽譜集。Lord of The Ringsに登場した詩や歌を実際に演奏に乗せて歌ったCDが付属。音質はともかく素敵な曲集です。特にありがたいのは、クウェンヤの"Namárië"とシンダリンの"A Elbereth Gilthoniel"について、トールキンさんご自身による逐語訳と解説、実際読む時のためのアクセント、そんでテングワール表記が載っていること。「もっとkwsk!」と言いたいとこ多数なんだけど。英語の逐語訳はほぼこれの通り(一部分かり易いように変えていますが)です。

3.“Ardalambion” http://folk.uib.no/hnohf/index.html
 アルダの言語を包括的に扱っているすごいサイト。"Quenya Wordlists"最高です。"Namárië"逐語訳もあり。いや〜勉強になるなぁ。他人様の研究を孫引きしないで第一次資料に当たるのが調べ物をする時にあるべき姿勢ですが・・分からなかったところをかなり頼っています。

4.『文庫新版指輪物語 全9巻セット』(評論社 1997)
 J.R.R.トールキン作 瀬田貞二・田中明子訳。昔は図書館でハードカバー借りてたけど、やっぱ文庫本は読み易い。時々?になって英語原著と照らし合わせたりする時も、このサイズは便利。あんな創作語だらけ言葉遊びだらけの物語をよくここまで訳して下さった・・。地名人名等固有名詞は、ほぼこのシリーズの訳語に準拠してます。↓の追補編も含めた10巻セットも出てます。

5.『文庫新版指輪物語 追補編』(評論社 2003)
 J.R.R.トールキン作 瀬田貞二・田中明子訳。『指輪物語』についての、地理、年代記、諸言語解説。旅の仲間のその後についても触れられています。訳者の田中さんによる固有名詞便覧もあり。結構分厚いんだけど、まだまだ語り尽くせないトールキン・ワールド・・

6.『新版シルマリルの物語』(評論社 2003)
 J.R.R.トールキン作 田中明子訳。英語原題は“The Silmarillion”。ジョン・トールキンさんが生前に纏め切れなかったものを、ご子息のクリストファ・トールキンさんが編集して出版したもの。『指輪物語』時代に生きる人々にとっては遥か上古の時代、神話時代の物語群。ガラドリエル様も登場します。田中明子さんによる訳。エルフ語の固有名詞カナ表記に関しては↓の著者伊藤さんの協力もあったとか。

7.『指輪物語 エルフ語を読む』(青春出版社 2004)
 映画『ロード・オブ・ザ・リング』で吹き替え版のエルフ語監修に当たった伊藤盡さんの著書。どうして字幕の方は"Namárië!"を「気をつけて」とかアホなことに・・「エルフ語はどういう言語?」の比較言語学的解説から始まって、作中の挨拶や詩の紹介、発音、テングワールの書き方、クウェンヤ少しとシンダリン文法の触り・・と、映画を見て「あそこのあれがちょっと」気になった人には盛り沢山な内容。エルフ語、特にシンダリンに関する素晴らしい本は洋書ならいくつかあるんだけど、「英語で書かれた未知の言語についての小難しい解説なんぞ理解できてたまるかー!」な人(←私)には入門用にすごくありがたい本です。日本語の文法用語(格の名称など)はこの本に合わせました。