Chibangma 〜翼馬語り〜

 馬です。
 一見、普通の馬。そいつがいきなり空飛んだら、翼馬よくばです。
 スノウリェンヌ(仏)語ではシュヴァル・エル(Cheval ailé)、複数形ならシュヴォー・エル(Chevaux ailé)。黒蓮ヘイリェン(中国)語ではチパンマァ(翅膀馬)。言っておきますが、ペガサスではありません。仏和辞書で"cheval ailé"を引いたらもろ「ペガサス」ですが、違います(他に言葉が思いつかなんだとです)。
 【作者としては、仏語はカッコ良過ぎて何か嫌だし、中国語の方は好きだけど何か琺夜族が乗ってるイメージじゃねーよってことで、「翼馬」のルビは基本的に「よくば」です。】

神話
 翼馬は大地の神カリブンクル(Carbuncul)の子孫。言うなれば神霊属ナプト馬。
 鳴声、鼻息、耳、尻尾、蹄(鳴声、鼻息、羽、肢、顔の皺)などを使って高度なコミュニケーションをとっている彼らにも、人間と同じような宗教理念があるのかもしれませんが、人類の知るところではありません。彼らは時折、地霊王グラーヌム(樹齢約6000年のでっかいイチイ)の枝という枝に集まって、奇妙な声で大合唱をすることがあります。琺夜族に言わせれば、翼馬は自分達が大地の神の子孫であることを知っていて、祖先への賛歌を歌っているのだそうです。

生態
 主な生息地は、メイシャの森。そこから森を伝って『北』の国まで分布しており、カタルシア近辺によく出没しますが、稀にソウユ湖東岸で見かけられることもあります。寿命は、一生森で暮らせば100年ぐらい。外で暮らせば60年前後。春先が発情期。
 普通の馬と同じで、毛の種類はまちまち。青毛(黒)、黒鹿毛、鹿毛、葦毛、月毛、斑毛、白黒斑毛など様々。白い毛は滅多にいません。
 一見したところ、彼らの背中に羽はありません。が、彼らが群れで飛ぶ時、必ず一定の距離を空けることから、翼馬は風の翼を持っているとも言われます。
 
しかーァし!↑はあくまで仮の姿。本当の姿は身長15〜30pの、皺くちゃで羽の生えた精霊です。
 翼馬の真の姿がどんなものが、リアルに想像したい方は、まずこの地霊さんを見て下さい。いいですか?想像してみて下さい。こいつの胴体両端についてる手らしきものを横に広げると、コウモリみたいな皮の翼が広がります。そんで、皮膚の色をお好きな馬の色に変えて下さい。いやぁ・・グロイですねぇ。
 こいつが「くきゃ〜!」と、世にも奇妙な声で鳴きます。こいつらが群れた日にゃ、けろっぴの大合唱よりおぞましいです(管理人は両生類が大の苦手)。
 精霊の姿の翼馬は、非常にまともに物理的な方法で、皮の翼を羽ばたいて飛びます。ちなみに大地の眷属なので、空を飛べると言っても地面の上に限られます。小さな水溜りの上ぐらいは飛び越せますが、大海原や水位の高い池、湖、河川などの上を飛ぶことはできません。土があっても、溶岩が流れ出してる活火山の上は駄目。楯状火山に要注意。これは馬の時でも一緒。
 性格は概ね気まぐれ。気性が荒く、家畜には不向き。知能は非常に高く、人と一緒に暮らしていれば、かなり複雑な人語も理解します。気に入った人を背に乗せてやることはありますが、それも気分次第。人をご主人様として絶対的に服従することは、まずありません。

歴史
 ↑こんな翼馬ですが、例外的に、琺夜の民には慣れることがあります。
 一つには、琺夜族が地霊の兄弟であり、守護者だから。まあ仲良くしてやっても良いかと。そしてもう一つの大きな理由が、琺夜族の
しぶとさ
 琺夜族は千年以上も前から、森の中でくきゃくきゃ鳴いてるこの生き物を家畜化しようと試みてきました。しかしその努力はなかなか功を奏しませんでした。余談ながら、琺夜の農耕暦の元年は、一番最初に翼馬の餌付けに失敗した琺夜族の戦士が蹴り殺された年です。
 しかし、それからちょうど500年後、農耕暦500年(サフェイス暦860年。『傍観神話』の時代から遡る事510年)に、当時の琺夜国王玲瓏帝れいろうていが、初めて翼馬を騎馬とすることに成功しました。500年の執念に、翼馬の方が「折れた」感じです。作者も玲瓏帝のことは知りませんが、スノゥリィ家の祖先です。たぶん背が低めのクレイみたいなガタイで琅珂みたいな性格をしていたと思われます。無敵です。
 それからは、なし崩しに、翼馬は琺夜族に背を貸し、彼らの歴史に寄り添ってきました。

その他
 人にしてみれば、翼馬に背を許されるのは並大抵のことではありません。最低、モンゴルの騎馬民族のように脚で馬の背を挟んで乗れるだけの乗馬術が必要です。翼馬は鞍や鐙なんぞつけさせてくれません。押さえつけて何とかしたって、縮んで飛んで逃げられます。拍車や鞭なんぞ出そうもんなら、二本の肢で蹴られます。慣れたと思って安心してると、振り落とされて踏み殺されることもあります。
 しかし、一度心を通じ合わせ、相棒と認めた相手には、翼馬はどこまでも付いて行きます。
 勿論、琺夜の民全てが翼馬に乗れる訳ではありません。全人口の5%未満です。翼馬に騎乗できる戦士はそれだけで仲間から高く評価され、出世の道も開けます。相棒を紋章のサポーターにできます。一種のステータス・シンボルですね。
 逆に言えば、琺夜国で大物になるには、翼馬ぐらい持っていないとお話になりません。琺夜族でないジェイドが将軍になれたのも、翼馬を相棒にするだけの器量が認められたからです。そんな訳で、当然翼馬に乗れなくてはいけない王子様の琳は、ちょっと焦っています。
 翼馬の方も、気に入った相棒を見つけて森を出て行くのはまんざら悪いことでもないらしく、パートナーのいない若い翼馬達は、森に入ってくる人に積極的にちょっかいを出します。
 相棒が引退、または戦死すると、メイシャの森に里帰りする翼馬もいます。そういう「退役軍人」の為に、グラーヌムはいつでも居心地のいい枝を用意しています。

♪「ナゾ?」 Music by Vagrancy.