あまちゅあふぁんたじー物書きの
ある日の言語との戯れ
時によりニートだったりフリーターだったりするウザオタク引き篭もり伝
その1 2009年3月某日
日本のとある田舎に、とある駄目な大人がいた。
2×歳。女。金はなくとも食うに困らぬ実家(農家)に寄生中。
先祖を5、6代ほど遡っても地元の農民と没落武士の坊主なのにインド人に似てるとか言われるタビにどの民族かと噛みつきたいけど一度本当にそれっぽい外国人にヒンディー語らしき言葉で話しかけられた程度のことがトラウマだと主張する、昨今特に厳しい世間様から冷たい目で見られていることにも気付かないシアワセな脳味噌の持ち主。
かじった言語は数知れず、なれど日本語さえまともにしゃべれない。
古代エジプト、続くプトレマイオス王朝、ヌミディアのユバに嫁いでマウレタニアに行ったクレオパトラ・セレネ、アウグストゥス以前のローマ、ケルト民族、ヴェルキンゲトリクス、それに近代王政時代フランス好き、ナポレオンには食指が動かんけどナポレオン3世はいいねなんぞというピンポイント歴史オタク。トールキン、上橋菜穂子大好きだけどこっちの面ではマニアと呼べるほど深くないファンタジーオタク。
好きな音楽家は志方あきこ、Clannad、Enya、Moya Brennan、Tri Yann、Aled
Jones(ボーイソプラノ時代もバリトン歌手の今も)。故人ならLily Laskine、カーメルのJonathon
Lee。あとニコニコのMEIKOマスター某Pさんとかいうある意味分かり易いマイナーこそオタクの本懐。
現在原稿中。且つ求職中。時間がないから原稿優先とか言いつつ金もないから仕事も探さなきゃとか言いつつ、そろそろ発売される志方あきこ様のアルバムはしっかり予約、購入資金だけはカードに入れて、万一も取り消しの憂いなし。
これで完璧と1人ごち、今日も今日とてこたつの中で祖母ちゃんの汗の結晶紅ほっぺを齧りながら、履歴書に書ける資格なく、原稿いじり過ぎてまいけるじゃくそん、現実逃避に電脳世界を彷徨うそのアホは、見つけてしまった。
志方あきこ様の『迷夢』のコーラス部分はガンジス川にうんたらが元ネタ――
いけなかった。こんな時に、地雷だった。
ゲームのファンも多い花帰葬、アルトネリコの曲ならば、解読する人も数多い。このダメオタクも、サントラ系は当然として、ゲームはシャドウハーツとうみねこ以外購入済。
花帰葬パソコン版及び+ディスクとアルトネリコ1ミシャルートはクリア。ヒュムノス検索、翻訳は当たり前。土屋さんその訳は文章足し過ぎ。好きだけど。ゲームの世界観に志方さんが大きく絡んでいると考えれば、手を出さずにはいられない。
けれど、されど、いかんせん、このオタクはそもそも、
BL未満ボーイズもこれなんてエロゲ?も百合妄想おkもそもそもPS2からして守備範囲外。
それはそれで奥が深い名作とは思いつつ、花白君が頬を染めるたび鳥肌(おかげでだいぶ免疫できた)、ダンジョンですらない場所でリアルシュレリア、オボンヌもといライナー君を脳内でタコ殴った回数は無限、クロア君の冒険は未だクローシェ様に出会った所で止まり、なんかそれ以上進める気もしない。・・ファンタジーは好きだけど、好きだけどさあ!コンピューターのRPGなんてっ・・!スーファミ時代ならいざ知らず、最近のゲームはDSの教養系とぷよぷよしかできません!ドラクエもFFもやったことないよ!プレステなんてThe
Book of Watermarksしかっ・・!
ゆえに、間違ってもそちらのファンの皆様とは語り合えない。
そんなダメオタクは、ここに主張する。
私はゲームが好きなんじゃない!志方あきこの音楽と古典ネタが好きなんだ!
だって・・持ってるんだもん。ガンジス川うんたらの楽譜。
だって・・嬉しいんだもん。同人時代のCDからコーラス聞き取って元ネタ検索するみたいな「志方さんオタク」がいたことが。
私も志方さんは好きだけど、イタリア語は・・OTL
自力で分かったのは「ロマの娘」の一部間奏だけで、あれの元ネタがそれだとは気がつかなかったんだ。「花帰葬」の前奏も、中途半端に間違った聴き取り歌詞を上げてたおかげで、「Notte」と同じAda
Negriの詩だと親切な人に教えてもらったんだ。おかげで「廃墟と楽園」は「箱庭の外で」と一緒でやっぱりOttorino
Respighiの曲についた歌詞だと検索できたけど。ギリシア語はちょびっと齧ってたからIstoriaの歌詞は全部改めて自分で翻訳したし、スワヒリ語⇔英語の辞書も買ってMsasiの意味がhunterであることも調べたけど。だけどだけど、ああ、だけど、「迷夢」は最初の単語がcoraggioだと思ってしまったらもうアウトだったんだ!未だに「蒼碧の森」も分かんないし、日本語訳がある「宵森人」も聴き取ってこれだと見当つく単語は30%以下だし、所詮私の語学力は戦力外!
残念なシアワセ脳がバーストしたオタクは、ますます駄目な方向に奮起した。
教えてもらったものを偉そうに書くのもカッコ悪いけど、とりあえず・・辞書を引こう。
まいけるじゃくそんな原稿と、こたつの上に山積みの求人情報誌をうっちゃって・・
Già il sole dal Gange 太陽はガンジス川から
Alessandro Scarlatti (1660〜1725):作曲
Felice Parnasso(生没年??):作詞
Già il sole dal Gange
più chiaro sfavilla
e terge ogni stilla
dell'alba, che piange.
Col raggio dorato
ingemma ogni stelo
e gli astri del cielo
dipinge nel prato.
ジャ | イル | ソーレ | ダル | ガンジェ |
Già | il | sole | dal | Gange |
副詞 | 冠詞 | 名詞 | 縮約冠詞 | 名詞 |
すでに | 太陽 | da il 〜から | ガンジス川 | |
太陽はすでにガンジス川から |
ピウ | キアーロ | スファヴィッラ |
più | chiaro | sfavilla |
副詞 | 形容詞 | 自動詞(原:sfavillare) |
もっと | 明るい | {それ(=太陽)は}光り輝く |
明るく輝きを増し(ながら昇り) |
エ | テルジェ | オンニ | スティッラ |
e | terge | ogni | stilla |
接続詞 | 他動詞(原:tergere) | 形容詞 | 名詞 |
そして | {それ(=太陽)は}拭き取る | あらゆる | 水滴 |
滴を拭い去る |
デッラルバ | ケ | ピアンジェ |
dell'alba, | che | piange. |
縮約冠詞+名詞 | 代名詞 | 自動詞(原:piangere) |
夜明けから | {それ(=夜明け)は}泣く | |
涙を流す暁から |
コル | ラッジョ | ドラート |
Col | raggio | dorato |
縮約冠詞 | 名詞 | 形容詞 |
con il 〜で | 光 | 金メッキの |
その金色の光で |
インジェンマ | オンニ | ステーロ |
ingemma | ogni | stelo |
他動詞(原:ingemmare) | 形容詞 | 名詞 |
{それ(=太陽)は}??宝石で飾る?? | あらゆる | 茎 |
あらゆる草木を??煌めかせ?? |
エ | リ | アストリ | デル | チェーロ |
e | gli | astri | del | cielo |
接続詞 | 冠詞 | 名詞 | 縮約冠詞 | 名詞 |
そして | 星(複数) | di il 〜の | 空 | |
空の星々を |
ディピンジェ | ネル | プラート |
dipinge | nel | prato |
他動詞(原:dipingere) | 縮約冠詞 | 名詞 |
{それ(=太陽)は}描く | in il の中に | 草原 |
草原に描き出す |
志方さんの「迷夢」の前奏コーラスは、二つ目のクワルティーナ(四行詩節)。押韻構成はabba。さらっと音読しても美しいなぁ。カタカナじゃ台無しだから、gliは口を横に開けて、lは舌先を上の歯茎につけるべし。「迷夢」の句切り方だと韻はあんまり関係ないけど、あれはあれで素敵だよね〜。
かつて、
英語だと全てTheで済む定冠詞を、女性名詞単複(laとle)、男性名詞単複(ilとi)、単数形の頭語が母音(l')、男性名詞単数形の頭語がzもしくはs+子音(lo)、男性名詞複数形の頭語が母音もしくはzもしくはs+子音(gli)、ただし古形で頭語がiの場合は別形もあり(gl')なんぞと8種類も使い分けねばならない時点で吐血(不定冠詞と部分冠詞も別に11通りぐらいあるとゆーのに)、
更にそれぞれの定冠詞が前置詞と合体した8×前置詞の数=50個以上(初心者が覚えるべきものは32個ぐらい)の「縮約冠詞の悪夢」に窒息、
主語によってころころ変わりやがる規則動詞の語尾変化を覚えかけたところで再帰動詞に完敗、かくして
イタリア語文法からの撤退を余儀なくされたウザオタクだが、非効率にも辞書を引きまくり、なんかシアワセな気分になった。
しかし、気になることが。ingemmaとは何ぞや。
ネット上で日本語訳を掲載しておられるクラシック音楽愛好家の皆様のページを拝見したところ、「輝かせ」とか「光で彩り」という感じ。大活躍の小学館ポケット辞書によると、他動詞ingemmareの意味は、「宝石で飾る ちりばめる」。その後に続く文章は「まるで草原が、星の瞬く夜空のようだ」という意味であろうから、これで自然だ。おかしくはない。しかし、ウザオタクが持っている「古典イタリア名曲撰集T中声用」によると、ここの意味は「すべての草木の芽をふくらませ」となっている。
納得いかないウザオタクは、今度は英語訳を探した。“ingemma ogni stelo”の訳は、“It
bejewels every stem”とか、“Its adorns each blade of grass”。やはりピカピカキラキラする感じの意味。Iralian-Englishを引いてみる。が、常日頃使えないと言いつつ愛用しているBerkley
Booksの辞書にはのっていない。やはりこの子は使えないという思いを新たにしつつ、ウザオタクは考えた。著者の川村先生が間違っているのか?しかし、この人はプロだ。この詩が書かれた時代のイタリア語を参照しているだろう。
首を傾げながら、今度は小学館で名詞gemmaを引いてみた。すると、その意味は「芽 宝石 大切な人 豆電球」。オタクは即座にロード・オブ・ザ・リングのゴラムの口癖「まい・ぷれしゃ〜す」を思い出しつつ、川村訳ありなんじゃないかと期待を抱く。
どうだろう?
こんな時には、親言語、ラテン語を調べてみる。
羅和辞典登場。inは接頭詞と考え、gemmaっぽい動詞を探す。
あった!gemmo,are, avi, atum。長母音のマクロンは省略だ。「発芽する」と「宝石をはめこむ」、2つの意味がある。この動詞にinがついてイタリア語のingemmareになったと考えたオタクは、浮かれながら同じページの名詞gemmaに目を留める。その意味は「芽、蕾」「眼」「宝石、宝玉」「印形のついた指輪」など。なるほど。昔から小さくて丸っこくてきらきらしたものを表す言葉だったらしい。とすれば現代イタリア語の「豆電球」も頷ける。
じゃあつまりどっちもあり?いや、これだけじゃ判断できんけども。スカルラッティさんは「命が育まれる」イメージと「宝石のように輝く」イメージを一つの言葉に込めて表現したってこと?(3/24追記:スカルラッティさんは作曲者であって、作詞者はパルナッソさんでした。不明とも書きましたが、パルナッソさんです。調査不足をお詫びします。)
気分が乗ってきたウザオタク。シアワセ脳の不思議な回路が「晴れすぎた空の下に」と繋がったのか、この詩にギリシア・ローマ神話要素をぶっこんで意訳してみることにした。イタリア語だし。ここはローマの名前で。とか変なこだわりを主張しつつ。
アポロがガンジス川の彼方より来り 黄金の馬車が空を昇り行けば
薔薇の指持てるアウローラのかんばせより 涙の滴は払われる
金色の光は草木を包み 眠りから覚めたタローは
テルスの園に アストラエウスの面影を描く
おかしいな・・いけてないぞ。いけてないどころか原作レイプだ。虚飾だ。虚偽の感動だ。ラスキン先生にもイェイツ先生にも怒られる。太陽を馬車にしちゃうと、お日様から広がる天使の梯子的光線が朝露をさあーっと「拭って」いくイメージがなくなるじゃないか。タローはギリシア読みだとサローで初代ホーライの一人でボッティチェッリのヴィーナス誕生にも描かれてる芽生えと青春の女神、アストラエウスはアストライオスで星空の神で、アウローラに対応するギリシアのエオスの夫だなんて、マイナー過ぎる。し、全体的にこじつけくさい。大体、アポロンにガンガーはやはり違う。はっ!stelo(茎)って男性名詞じゃん。いや、タローって日本だと男の名前だけどさぁ。あちこち破綻してる。何故だ。いいアイディアだと思ったのに。やはり睡眠不足だとロクなことを考えないな、うん。
とにもかくにも、「草原の植物が朝日に照らされて一斉に芽を出したら、若葉がきらきら光ってお星様みたいに綺麗だな〜」というイメージを捉えて満足したウザオタクは、寝ることにした。
結局のところ、この詩が書かれた時代に両方の意味があったのか、あったとしたら現在でもその意味は残っているのか、その辺はイタリア人に聞いてみないことには分からない訳だが、コミュニケーション能力の欠如した痛いオタクには、わざわざ辞書を引き引き質問をこしらえて外国語掲示板に書き込むつもりなど微塵もない。
机上の一人遊びはここで打ち止め。今度図書館か本屋でもっと大きい辞書も引いてみようかな。などとひたすらに自分の内に引き篭もる方針のウザオタクは、今日もガンジス川ならぬ四国山地の山間から昇ったまばゆい朝日の下、きらきら光るイチゴ栽培用ビニールハウスを遠目に見ながら、涙の滲んだ目を擦るのであった。
こんなだから職も見つからないし友達も寄って来ないんだろ。家族にどれだけ迷惑かけてると思ってるんだ。もうちょっと何とかしろよ――などという内なる微かな理性の声を素直に聞くようであれば、ウザオタクは既にしてニートではないのであり、こんな人間が生息できる日本の某田舎は、今日も壊滅的に平和であったとさ。
めでたしめでたし。
※アレッサンドロ・スカルラッティさんと志方あきこさんにウザいまでに愛を込めて。
この物語は、ノンフィクションに限りなく近いフィクションですが何か。
二次創作・・って言うよね、これも。
スカルラッティさん、これ著作権切れてますよね?
歌詞は『古典イタリア名曲撰集T 中声用』より