Taraについて
オタクのオタクによるオタクのためのメモ書き

 ウザい語りの趣旨を一言で述べると、
   「タラの丘はアイルランド人の心の故郷です」
 以上。

 Moya Brennan様の歌う"TARA"の中に、一部アイルランド語の歌詞があります。このサイトの名前の由来でもある、大好きな歌。今回は、これで勉強してみたいと思います。
 ちゃんとした歌詞はアルバム『トゥー・ホライゾンズ』("Two Horizons"日本版)の歌詞カードに掲載されています。また、公式サイトのここでも英訳付で見ることができます。もしかしてUK版とUSA版には歌詞カードがついていなかったのか?色々と怖いので、直接転載はしません。
 公式の試聴ページはここ(FLASHです)。イントロムービーが流れた後、AUDIO CLIPSをクリックすると曲名が表示されますので、「TARA 6」を選択して下さい。



単語帳
・éist(イシュト)・・二人称単数の命令形としては、「聴いて!」あるいは「お黙り!」という意味。
・fuaim(ファム)・・音。
・an(アン)・・単数定冠詞。
・cláirseach(クラールシャス)・・竪琴、ハープ。
・ar(アル)・・〜の上に。
・barr(バール)・・てっぺん、頂上。
・Teamhair(トァムワル)・・タラの丘。本来は「丘」の意味らしい。一般的な「丘」を指すのはcnoc(クノック)やtulach(トゥラハ)。
・seo(シャオ)・・ここ。
・chugaibh(ハガヴ)・・あなたたちに。前置代名詞chuigの二人称複数形。
・Ard rí(アルド リー)・・上王。直訳すると「高位の王」。

 「狭子音?二重母音?ナニソレおいしいの?」な私の耳にはどーにも聞き取れない音を、無理矢理カタカナにしました。辞書の発音記号も横目で参考にしつつ、「こんな風に聞こえる」思い込みを優先。イタリア語のように簡単には読めません。



・単数定冠詞のan(The)は厄介な奴で、頭が子音の女性名詞(↓の例外を除く)につくと、その名詞の前から二番目にそっとhを滑り込ませ、柔らかい音に変えてしまいます(軟音化)。
        cláirseachクラールシャハ(ハープ)→an chláirseachアン フラールシャハ
         ※語尾のchは、ドイツ語のBach(バッハ)の「ハ」みたいな音。Taraのコーラスでは、どっちかっつーと「ス」に聞こえました。
 んで、頭が母音の男性名詞、あるいはsa,si,su,se,so,sl,sn,srのどれかで始まる女性名詞にくっついた時には、名詞の頭にtを被せてしまいます。ちなみに、頭が母音の女性名詞や頭が子音の男性名詞には、ただくっつくだけ。
        Ard ríアルド リー(上王)→an tArd ríアン タルド リー
        Seapáinシャポーイン(日本)→an tSeapáinアチャポーイン
 ※我らが祖国をアイルランド語で。国名カタカナルビは梨本さんのニューエクスプレスを参考にしてます。「シャポーイン」(;´д` )、「アチャポーイン」\(^o^)/・・どうよこの語感?スペイン語の「ハポン」に匹敵しないか?
 ところで、日本、中国(An tSínアチーン)、フランス(An Fhraincアンラインク)、ドイツ(An Ghearmáinアィヤルマーン)辺りは普通冠詞が付くのに、アイルランド(Éireエーラ)、イングランド(Sasanaサーサナ)、スコットランド(Albainアルバン)、アメリカ(Meireacáメリカー)にはつかない。アイルランド人にとってあんまり馴染みのない国には冠詞がつく傾向?不思議だ。

 

・前置詞のar(〜の上に)は、後に続く名詞の前から二番目にそっとhを滑り込ませます(軟音化)。
        barrバール(頂、てっぺん)→ar bharrアル ヴァール(頂の上に)
 ちなみにar an(on the)となった場合、後に続く名詞の頭が大変なことになります(暗音化)が、ここでは出て来ないので割愛。
 
・ケルト語族ときたら、あらゆる前置詞が代名詞とくっついて人称変化しやがります。辞書のprep prons(prepositional pronouns)って日本語的にどういう文法用語だ?と思ってたら、「前置代名詞」あるいは「前置詞的代名詞」だって。そのままですか。
        to me(一人称単数形)はchuigヒグ。辞書にはこの形で載ってます。to you(二人称複数形)がchugaibhハガヴ
 ひぐ、ふガむ、ふげっ、ひが、ひき、ふがん、ふがヴ、ふく!・・発音練習してたら、呼吸困難と勘違いされるし。イタリア語の「縮約冠詞の悪夢」を思い出す・・

・辞書によると、seo chuige(三人称単数男性形)で、let us set to itという意味になるらしい。そういう成句か。なるほど。
 

ということで、意訳は歌詞カードがしてくれているので直訳っぽく訳してみます。


音に耳を澄ませて!このハープに!
タラの丘の頂に
上王を出迎えなさい
タラの丘の頂に

 ちなみにアイルランド語歌詞では、上王様は"an tArd rí"と単数形ですが、英語訳では"The High Kings"と複数形で、「タラの丘に上王たちが到着した」と分かり易く訳されています。
 タラの上王様は一つの時代にお一人ですが、この歌は時代を遡る物語なので、「このタラの丘で幾人もの上王が即位した」という歴史を語る意味で、英語の方が複数形になっているのでしょうか。

 言葉の勉強が終わったところで、ここからは歴史・・と言うか神話伝説のお勉強。

 Ardアルド リー na hÉireannエーレンリー hÉrenn uileエレニーラ 全エリンの王)とは、アイルランド(エリン王国 Ardアルド Ríochtリーハト na hÉireannエーレン)における最上位の王のことです。伝説によるとBC1514(最初のríは人間でも妖精でもないFir Bolgフィル ボルグ族)から、歴史上AD1175まで存在しました。英語では"High King"。これも物語ですが、英雄フィン・マックール(Finn mac Cumaill)さんが仕えるコルマク・マッカート(Cormac mac Airt)王が比較的有名でしょうか。
 かつてアイルランドには、リー Tuaitheトゥアテ(部族の王)の上にリー tuathトゥアトあるいはRuiriルイリー(部族連合の王)、その上にリー Cóicidコーギドcóicedコーゲドの王 アルスター、レンスター、コナハトなどという「国」の支配者。彼らもArdアルド リーと呼ばれる)など様々なリーがいらっしゃいましたが、その全てに勝る全アイルランドの支配者たるお方がArdアルド リー na hÉireannエーレンということになっています。「リーは大勢いるけどタラの丘を支配するリーはやっぱ特別だよな」という、何となく定着したアイルランド人達の思い込みを利用して、9世紀ぐらいに「タラの王こそ全アイルランドの王だ」と言い出した人がいたんだとか。現実には、リー同士常に戦ってるわ、ヴァイキングは攻めて来るわ、戦国無双なアイルランドに中央集権的王政らしきものがあったのはブライアン・ボルー(Brian Bóruma)王の時代ぐらいだったみたいだけど。ああ、なんかこの有名無実感は「神聖ローマ皇帝」の概念に近いような気もするなぁ・・
 文学世界では、Ardアルド リーはシンプルに一番エラい王様です。全アイルランドにFírフィール flathemonヴラテウォン(『王者の正義』とか『統治者の真理』と訳される概念)を実現するお方。ブリテン島におけるアーサー王みたいなイメージでしょうか。政治的中心地であり、ケルト人の精神的な故郷でもあるTeamhair(『ケルト事典』の表記はTemailテウィル)を支配する、あらゆるリーに抜きん出たお方なのです。

 

 Teamhair(Teamhair na Rí 王の丘)が何故聖地となったのかと言うと、とても眺めがいいそうです。行ってみたいですねぇ。
 ・・ええと、ここからはますます伝説上のお話になります。聖書の物語も絡んでいます。
 ノアの大洪水の後、アイルランドには新しい入植者達が訪れては、土地の支配権を巡って先住者と争うということを繰り返していました。ノアの息子ヤフェトの子孫であるミール(Mír)の息子達がやってきた時、この島は魔力を持つTuatha Dé Danannトゥアハ デ ダナン(ダーナ神族)のものでした。
 先住者トゥアハ・デ・ダナン族は争いに敗れ、地中に逃れて妖精族(sidheシー)となります。しかしTeamhairには魔法の石Lia Fáilリア ファールが残され、その後も代々のArd ríの選定に使われました。王に相応しい人物がそこに立つと、この石が叫び声を上げるのだそうです。
 かくして土地を手にしたミールの息子達。その子孫であるアイルランド人は、ノアとスキタイの王女とエジプトのファラオの娘の血を引いてることに。どうしてそうなった?
 ちなみにトゥアハ・デ・ダナンの皆さん、ミールの血筋を引く人間たちの物語にも度々出て来ます。摩訶不思議な魔法を操る存在として。・・こんな人達に良く勝てたなぁ。まあ、フィン・マックールさんとか、愛の黒子のディアルミド(Diarmait ua Duibne)君とか、人間側の英雄諸君も相当人外なんですが。混血しちゃうと、ケルト神話群最強のチート野郎、乙女子のように美しいけどバーサク状態でえらいことになるクー・フリン(Cú Chulainn)みたいなのが生まれます。ギリシア神話と同じく、神族?と人間との結婚も良くあること。そんで人間たちも妖精たちもどっか抜けててつっこみどころ満載なのが、また魅力。

 アイルランド人の多数は、今も妖精を信じているとか。うん。紀行番組とかで風景見ると、普通に妖精いそうだよね。


とりあえず宣言。著作権侵害の意図はありません。
ここの文章書いた人は色んな意味でド素人です。
偉そうに大嘘書いてるかもしれませんので、要注意。


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参考文献