Se l'aura spira

Girolamo Frescobaldi(1583〜1643):作曲
作詞者不明

Se l'aura spira tutta vezzosa,
la fresca rosa ridente sta.
La siepe ombrosa di bei smeraldi
d'estivi caldi timor non ha.

A balli, a balli, liete venite,
ninfe gradite, fior di beltà.
Or, che sì chiaro il vago fonte
dall'alto monte al mar sen'va.

Suoi dolci versi spiega l'augello,
e l'arboscello fiorito sta.
Un volto bello all'ombra accanto
sol si dia vanto d'aver pietà.

Al canto, al canto, ninfe ridenti,
scacciate i venti di crudeltà.


 はい。「ガンジス川〜」より古いSe l'aura spiraです。日本語だと「そよ風吹けば」というタイトルで知る人ぞ知る曲。
 志方さん版では、二つ目の詩節の後に四つ目の詩節を歌って最後に三つ目の詩節が来るという入れ替えをやってますね。これはちょっとそのまんまだから載せるつもりなかったけど、やっぱり大好き主張の為、自分用にWordに作ってた訳を引っ張り出して編集してみたり。
 これを見ても、イタリア語を喋れるようにも読めるようにもなりません。初心者のぐだぐだ具合を披露してこれから学ぼうという人の足を引っ張るという悪質な嫌がらせでも別にない筈ですが。ぐだぐだ。

ウラ ーラ トゥッタ ヴェッツォーザ
Se l'aura spira tutta vezzosa,
接続詞 冠詞+名詞 自動詞(原型:spirare) 形容詞 形容詞
もし〜なら 微風 (それが)吹く ever 愛らしい
そよ風が優しく吹いたなら

auraがイタリア語辞書にのってなかったことに、地味に驚いた。文語的表現なのか。
元はラテン語の女性名詞で、神話にも出て来る言葉。
「そよ風よ、私を癒しておくれ」とか言ってた男が、「アウラ」というニンフに浮気してると奥さんに勘違いされたとか。

スカ ーザ ーデンテ
la fresca rosa ridente sta.
冠詞 形容詞 名詞 自動詞(原型:ridere) 動詞(原型:stare)
新鮮な 薔薇 (それが)笑う to be(それが)〜している
瑞々しい薔薇は笑っている。

frescaがrosaの前にあるのがちょい不思議。現代語ならla rosa frescaのような。
「摘み立ての」とも解釈できるけど違うよな、この場合。
stareは英語のbeとstayの意味を持つ不規則動詞。容赦なく頻出する。
"stareの現在形+ジェルンディオ"で「〜している」。ひっくり返ってるけど。
日本語では「笑みが零れる」、「花が(咲き)零れる」という言い方をするけど、
この場合のridenteも「花が咲く」ことの比喩的表現なんだろうか。

スィーペ オンブーザ ディ ズメルディ
La siepe ombrosa di bei smeraldi
冠詞 名詞 形容詞 前置詞 形容詞(原型:bello) 名詞
生垣 陰になった 〜の 美しい エメラルド(複)
美しいエメラルドグリーンの 蔭の生垣は

ここは普通に名詞、形容詞の順だな。belloは現代語でも名詞の前に来る形容詞だし。
ここのsmeraldiは名詞だけど、形容詞っぽく訳した方が良さげ。にしても修飾語多過ぎ。

デスティーヴィ ルディ ティール ノナ
d'estivi caldi timor non ha.
前置詞+形容詞 名詞 名詞(timore) 副詞 他動詞(原型:avere)
di estivo 夏の 暑さ 恐れ ない (それは)持つ
夏の暑さを恐れない。

d'estivi caldi・・なんで複数形なんだろう。そしてやはり語順に違和感が。
単語の最後から二番目の子音がl, m, n, rの場合、語呂を良くするために尻尾の母音を切っちゃうことがあるらしい。
んな無茶な。現在語ならしつこく冠詞がつくけど、冠詞なしでそこ省略されたら単複が分からんじゃないか。
そしてティモーレはティモールに。ローマ神話の恐怖の神と同じ綴り。
avereはイタリア語版have動詞。過去時制でもよく使う。essere、stare、avereは初心者の丸暗記課題。ことごとく不規則変化する。

ッリ ッリ ーテ ヴェーテ
A balli, a balli, liete venite,
前置詞 名詞 形容詞 自動詞(原型:venire)
〜に 踊り(複) 陽気な (あなた達が)来なさい
ダンスに ダンスに 楽しく おいでなさい

うん。変な日本語。

ンフェ グラディーテ フィール ディ ベル
ninfe gradite, fior di beltà.
名詞 形容詞 名詞(fiore) 前置詞 名詞
妖精(複) 気持ちよい 美女
?愛らしい?妖精たち、美しき花よ

fioreは頻繁にトロンカメント(語尾切断)する単語です。上のtimor参照。
gradite・・川村先生は「心優しい」と訳していらっしゃる。小学館では「うれしい、気持ちよい、好みに合う」。
「愛想がよい」という意味でいいだろうか。
fior di beltàは花そのものが美女=花の妖精?
しかし、やっぱり現代語に比べて冠詞の使用が控えめじゃないか。

ール スィ ーロ イル ヴァーゴ フォンテ
Or, che chiaro il vago fonte
副詞(ora) 代名詞 副詞 形容詞 冠詞 形容詞 名詞
であるところの 本当に 澄んだ ?ぼやけた? ?水源?
今、澄み切った静かな湧き水が、

oraがorに。またしてもトロンカメント(語尾切断)。
vago・・「漠然とした」だと?川村先生の訳は「静かな」。
真夏で水面に陽炎が揺らめいてる・・というのは間違いかな。
え〜?この場合のfonteって女性名詞じゃないんすか?何で冠詞も形容詞も男性形になってんのよ?
現代イタリア語だと男性名詞のfonteは「洗礼盤」か「フォント」。ラテン語なら男性名詞fons(泉)の奪格がfonteだけど。
・・分からない。とりあえずほっておこう。

ダッルト ンテ アル ール センヴァ
dall'alto monte al mar sen' va
縮約冠詞+形容詞 名詞 縮約冠詞 名詞(mare) 代名詞+代名小詞+自動詞(原型:andare)
da l' から 高い a il 〜に se ne va (それ自身が)そこから過ぎ去る
高い山から海へと落ちていく

またまたしてもトロンカメント。mareのeが落ちました。
sen' vaはse ne vaの古い言い方でいいのかな。再帰動詞andarseneの3人称単数現在形。英訳したらgo away。
andareもこれまた初心者の覚えるべき不規則変化動詞。英語のgo。ただでさえめんどいのに再帰動詞なんか嫌いだ。

スオイ ルチ ヴェルスィ スピーガ ラウジェッロ
Suoi dolci versi spiega l'augello,
所有形容詞 形容詞 名詞 他動詞(原型:spiegare) 冠詞+名詞
それの(複) 甘美な(複) 詩(複) (それが)説明する 小鳥(単)
小鳥はその甘美な声で謳い、

spiegareはこの場合、「大声で歌う」の意味か。
「小鳥」がucchellinoじゃなくてaugelloなところがまことに古風。

ラルボスチェッロ フィオート
e l'arboscello fiorito sta.
接続詞 名詞 形容詞 動詞(原型:stare)
そして 若木(単) 花の咲いた (それは)〜している
若木は花を咲かせている

また出てきたstare。
l'augello、l'arboscelloでリズムを作ってるらしい。

ウン ヴォルト ッロ アッンブラ アッント
Un volto bello all'ombra accanto
不定冠詞 名詞 形容詞 縮約冠詞+名詞 副詞
顔つき 美しい a l'  影 隣に
その木蔭の側の美しい面よ

久しぶりに見た気がする不定冠詞。今まで詩文に出てくるのが定冠詞ばっかりだから定冠詞を「冠詞」って書いてたよ。
この詩は定冠詞の登場も少ないけど。
そしてさっきから語順が無茶苦茶なのは気のせいだろうか。
17世紀ぐらいのイタリア語は形容詞と名詞の順序とかどうでも良かったのかな。

ール スィ ディーア ヴァント ヴェール ピエ
sol si dia vanto d'aver pietà.
形容詞(solo) 代名詞 他動詞(原型:dare) 名詞 前置詞+動詞(avere) 名詞
〜だけ 〜を (あなたが)与えろ 誇り   を持つことで 哀れみ
哀れみを持つことを誇って、与えろ

あんまり自信がない。ここもしつこくトロンカメント。avereは不定詞か。
テキストによってはd'haverになってることもあるけど発音一緒。

アル ント アル ント ンフェ ーデンティ
Al canto, al canto, ninfe ridenti,
縮約冠詞 名詞 名詞 形容詞
a il で 妖精(複) 笑っている
歌で 歌で 笑う妖精たちよ

またまた変な日本語。

スカッチャーテ ヴェンティ ディ クルデル
scacciate i venti di crudeltà.
他動詞(原型:scacciare) 冠詞 名詞 前置詞 名詞
(あなたたちが)追放しろ 風(複) 残酷さ(単)
残酷な風たちを追い払え

auraもventoも「風」だけど、女性名詞auraが「そよ風」なら男性名詞ventoは「暴風」。
ラテン語のauraは「風、微風、空気、空」の他に「日光、香気、輝き」という素敵な意味がある。
同じくラテン語のventusは「風、空気、運、人気、嵐、不幸、悪い風評」であるからして、
イタリア語になってからも2つの言葉のイメージはaura=優しくきらきら、vento=激しく轟々なんだろうか。

これに関しちゃ、素敵な訳があるから気が引けるんだけど、一応君影的意訳を載せてみる。



そよ風が優しく吹けば いとけない薔薇は蕾を開き
美しいエメラルドの 蔭深き茂みは
夏の暑さに恐れを持たぬ

さあ 踊りの輪に 弾んでおいで
愛らしい妖精たち 美しき花よ



揺らぐ泉が澄み切って
山の高みから海へと流れ落つこの時
小鳥は甘く詩をさえずり 若木はその身を花で覆う

蔭を伴う美しい木立よ
誇りを持って 慈悲を与えておくれ

喜び笑う妖精たちよ 歌を重ね
残酷な風を追いやっておくれ




 う〜ん? Un volto bello all'ombra accanto sol si dia vanto d'aver pietà.が今一つ分からない。「エメラルドがいっぱいきらきらしてるみたいな生垣は、綺麗だし、暑さを遮る木陰も提供してくれるし、防風林としても最高だ〜」・・って意味だろうか。
 どうも解釈が間違っているような気がする。


素材をお借りしました

歌詞は『古典イタリア名曲撰集T 中声用』より