反響するプシケー ラテン語メモ
love solfege 『反響するプシケー』より

真名辺あやさんのベストアルバムの表題曲。
日本語歌詞にちょっと混じってるラテン語のメモ。

ご本家様特設ページ

bandcampで無料で聴けるようになりました。
勿論惚れたらお金も払えます。

※長母音記号は勝手につけました。
青字のカナが古典式発音風ルビ、黒字のカナがイタリア教会式発音風ルビです。後者の短音長音は割と適当です。

psychē(古:シュケー/教:プスィケ)・・「魂、精神」。ギリシア語形第一変化女性名詞。古典ギリシア語の女性名詞 ψυχήプシュー(生命、魂、精神、息吹、蝶)に由来する。

ディエー ース ティ
Hodiē mihi, crās tibi.
ーディエ ティ
副詞 人称代名詞 副詞 名詞
今日 私に 明日 君に
今日は私に、明日はあなたに
hodiēは「今日、現代、昨今」。無変化の副詞。
mihiは一人称単数与格の人称代名詞。
※教会式発音では、原則hを読まない。だけど、このmihiと副詞nihil(何も~ない)に関しては、hを[k]音で読むという例外規則がある。
crāsは「明日、将来」。無変化の副詞。
tibiは二人称単数与格の人称代名詞。

 一見何のことだか分からないけど、これがキリスト教徒の墓碑によく刻まれる文言だと分かれば、意味は明白。
 『シラ書』の一節、"Memor esto judicii mei: sic enim erit et tuum: mihi heri, et tibi hodie."(私の裁きを忘れるな。なぜなら、あなたもそのようになるのだから。昨日は私に、そして今日はあなたに)に由来するみたい。
{Vulgatae Clementina 205 Sirach (Ecclesiasticus) 38:23}

 耐え難き苦難を耐え忍ぶべき時に慰めで口にしたり、人の不幸をメシウマしてる奴に「明日は我が身だぞ」と忠告したりするのにも使える。
 似たようなこと言ってる墓碑銘に"Tu fui, ego eris."(私はあなただった。あなたも私になるだろう)ってのもある。

 『今日は私に 明日は君に(死が訪う)』

ーメンター
Sed lāmentā.
メンタ
接続詞 副詞 動詞
しかし ~するな (君が)嘆け
けれど、嘆くな
は否定の副詞。nē+普通の命令法(第一命令法/命令法現在)は、詩によく使われる表現らしい。
lāmentāは第1活用自動詞lāmentō(嘆き悲しむ)の命令法能動(二人称)単数形。

 『されど、嘆く勿れ』

ーモー ニム テスト ムニア ーレ
Nēmō enim potest omnia scīre
ーモ ニム テスト ムニア スィーレ
代名詞 接続詞 動詞 名詞 動詞
誰も~ない と言うのも (それは)~できる すべてを 知ることが
何故なら、誰も全てを知ることはできない
nēmōは男性または女性の代名詞。(単数)主格。否定の副詞nēとhomō(人間、男)がくっついたやつ。
enimは「なぜならば、すなわち、勿論」。接続詞。
potestは不規則自他動詞possum(~できる、可能性がある、~する気になる、知っている)の直接法能動現在三人称単数形。
omniaは第3変化形容詞omnis(すべての)の中性複数(ここでは)対格形。ここでは名詞化。
scīreは第4活用自他動詞sciō(知っている、精通している)の不定法能動現在形。

 元ネタは古代ローマの学者兼作家ウァッロさん(Marcus Terentius Varro:BC116–27)の著作、『農業論』全3巻の2巻第1章。スクロファという人物が言った言葉。牧畜に関する教え?議論?をせがむ発言の一部。これに対し、「私」が"non quo non ego pecuarias in Italia habeam, sed non omnes qui habent citharam sunt citharoedi"(私もイタリアに家畜を飼っていなくはないけど、キタラを持つ者全てが吟唱詩人ではないから)とか謙遜しつつ語り始める。
[Rerum rusticarum : De agri cultura Liber II 1.]

 『何人も、全てを知ることは能わぬのだから』

 love solfegeのラテン語使用曲はいつも教会式発音だけど、この曲はもしかして古典式発音で歌ってないか?短いフレーズだし自信ないけど、scireは「スィーレ」じゃなく「スキーレ」に聴こえる。だとしたら、いつもの讃美歌系とは違った、古い格言の雰囲気を出しているのかもしれない。
 『君に語られる 吾が名は何処へと~』から後のバックでも同じコーラスが聴こえるのは、「反響」なのかな。


素材をお借りしています↑

この文章書いてる人はラテン語に関してド素人です。
このページはあくまで『反響するプシケー』CD等買った人向け、参考にならない辞書もどきであって、
著作権侵害の意図はありません。が、もし怒られたら消えます。

参考文献
・Biblia Sacra - Vulgatae Clementina (LVC)
http://lvc.ibibles.net/
・Varro: De Re Rustica
https://penelope.uchicago.edu/Thayer/E/Roman/Texts/Varro/de_Re_Rustica/home.html