Concordia ラテン語メモ
love solfege 『蓋然性進化論Ⅱ』より

バロック音楽と近代音楽のコンコルディア仕立て。

歌手は真理絵さん。


ご本家様特設ページ

bandcampで無料で聴けるようになりました。
勿論惚れたらお金も払えます。

※長母音記号は勝手につけました。
青字のカナが古典式発音風ルビ、黒字のカナがイタリア教会式発音風ルビです。後者の短音長音は割と適当です。

concordia(コンルディア)・・「同意、連合、共感、和平、友好、調和」。第1変化女性名詞(単数主格)。
Concordia(コンルディア)・・「コンコルディア」。第1変化女性固有名詞(主格)。古代ローマの調和、和合を象徴する女神。ギリシア人にはホモノイア(Ὁμόνοια)の名で崇められた。また、ハルモニアー(Ἁρμονία)と同一視された。
 女神コンコルディアの最古の神殿跡は、現フォロ・ロマーノの西端、カピトリーノの丘の麓にある。紀元前367年、貴族(Patricii)と平民(Plebes)の政治的同権を定めたリキニウス=セクスティウス法が制定された後、身分対立の解消、ローマ市民間の和合を祈って建てられた。
 

rhythmos(古:リュトモス/教:トモス)・・「(音楽やスピーチにおける)調和、ハーモニー、リズム」。ギリシア語形第2変化男性名詞(単数主格)。古典ギリシア語のῥυθμόςリュトス(整然とした形状や様式、特徴的な外観や様式ややり方、人の気質、規則的な動き、リズム、拍子、釣合、等)に由来する。語尾をラテン語形にしたrhythmus(古:リュトムス/教:トムス)でも同じ意味。

sodālitās(古:ーリタース/教:ソリタス)・・「交際、親愛、連帯、協会、(宗教の)結社、クラブ、遊び仲間」。第3変化女性名詞(単数主格)。


ディスルディアー クスィマエ ディーラーントゥル
discordiā maximae dīlābuntur.
ディスルディア クスィメ ディラントゥル
名詞 形容詞 動詞
不和によって 最も大きな(ものたちは) (それらは)崩壊する
不和によって最大の(ものたちが)崩れる
discordiāは第1変化女性名詞discordia(不一致、意見の相違、不和)の単数奪格。
 Discordia(ディスコルディア)は、コンコルディアと真逆の不和と争いを象徴する女神の名でもある。ギリシア神話のエリス(Ἔρις)に相当する。
maximaeは第1第2変化形容詞magnus(大きな、多数の、老いた、偉大な)の最上級maximus(最大の、最も多い、最年長の、最も重要な)の女性複数主格形。↓の引用元は"maxumae"になってるけど、別形で同じ意味。
 ※主語となる女性名詞複数主格rēs(物たちは)が省略されてる。
dīlābunturは第3活用異態自動詞dīlābor(崩れる、崩壊する、溶ける、流れ出る、散乱する、ばらばらになる、衰える、消滅する)の直接法現在三人称複数形。

 『最も大きなものとて、不和によりては崩れ去る』

 元ネタは古代ローマの政治家であり歴史家サッルスティウスさん(Gaius Sallustius Crispus:BC86-35)の歴史書、『ユグルタ戦記』(Bellum Iugurthinum)の第10章。
 死期が迫ったヌミディア王ミキプサが、甥にして養子であるユグルタに、実子アドヘルバル及びヒエムプサルと仲良く国を治めるようにと願い語った言葉の一部。

 "non exercitus neque thesauri praesidia regni sunt, verum amici, quos neque armis cogere neque auro parare queas: officio et fide pariuntur. quis autem amicior quam frater fratri? aut quem alienum fidum invenies, si tuis hostis fueris? equidem ego vobis regnum trado firmum, si boni eritis, sin mali, inbecillum. nam concordia parvae res crescunt, discordia maxumae dilabuntur."

[Sallust, Bellum Iugurthinum (Axel W. Ahlberg, Ed.).] 10, 4~6より引用
 「王権の守りとなるのは軍隊でも財宝でもなく友なのであり、これは武力で強奪することも黄金で購うこともできはしない。それは奉仕と信義によってのみ得られるのだ。ところで兄にとって弟以上に親しい友があるだろうか。また、もしお前が身内に対して敵であったら、どうして他人の間に忠実な者を見つけることができるだろうか。まことに、私がお前たちに渡すこの王権は、お前たちが善良であれば強固であるが、邪悪であれば脆弱となるのだ。というのも、和合は小さきものをも成長させ、不和は最大のものをも粉砕するのだから」
『ユグルタ戦争 カティリーナの陰謀』(岩波文庫 2019) p21より引用

 この"Concordiā parvae rēs crēscunt, Discordiā maximae dīlābuntur.(和によって小さきものが栄え、不和によって最も強きものが崩壊する)"が、長い歴史で何度も引用され唱えられる格言となった。
 例えば、上半分の単語の順番を一部入れ替えた"Concordia res parvæ crescunt"は、16~18世紀に存在したネーデルラント連邦共和国(Republiek der Zeven Verenigde Nederlanden)のモットーとして、国章のスクロールにも書かれていた。
 現代でも、共通の目標に向かって強い一致団結を訴える時にしばしば使われるフレーズ。

 この歌のラテン語は古典式発音。真理絵さんの歌もオーギュスト棒さんのピアノもド迫力でいいんですよ。そして紺野さんの歌詞ですよ。何でこんな世界を表現できるんだと感嘆しつつ、あんまり理解できている気がしない。
 ミキプサ王の忠言は空しいものとなった。ローマのコンコルディア神殿は、建立後数百年に亘り、破壊と再建が繰り返された。ローマ市民の連帯と共に。では、この歌のConcordiaは?
 「和合して協調して連帯すれば、何事も、何物も、大きく強く栄えることができるのです。しかしながら、簡単にそれができれば苦労はしねえ!小さきものの立場で全体の流れをどうこうできるもんじゃないのです。けれどそれを求めて未来へと進むのです」みたいな風に感じなくもない。いや、やっぱり分からん。
 この後、聖餐唱曲およびレチタティーヴォに「あなたたちが互いに愛し合えば、神の王国に行けるよー」と言われる。


この文章書いてる人はラテン語に関してド素人です。
このページはあくまで『蓋然性進化論Ⅱ』CD等買った人向け、参考にならない辞書もどきであって、
著作権侵害の意図はありません。が、もし怒られたら消えます。

参考・引用資料
・"Perseus Search Tools"
 http://www.perseus.tufts.edu/hopper/search?redirect=true
・"The Cambridge Greek Lexicon"(Cambridge Univ Pr. 2021)

・『西洋古典学事典』(京都大学学術出版会 2010)

・"Sallust, Bellum Iugurthinum" (Axel W. Ahlberg, Ed.)
 https://www.perseus.tufts.edu/hopper/text?doc=Perseus%3Atext%3A2008.01.0002%3Atext%3DJug.%3Achapter%3D10
・"Wikipedia L'enciclopedia libera"内"Concordia parvae res crescunt, discordia maximae dilabuntur"
 https://it.wikipedia.org/wiki/Concordia_parvae_res_crescunt,_discordia_maximae_dilabuntur
・『ユグルタ戦争 カティリーナの陰謀』(岩波文庫 2019)