Psalmi 5:2-9 ラテン語メモ
love solfege 『調和性ラトゥリア』より

チェンバロ!オーボエ!バロック!最高!
歌詞はラテン語聖書(ウルガータ)からの引用。
真名辺さんが『調和性ラトゥリア』の締めにこの詞を選んだ理由とは?

歌手は真名辺あやさん。

ご本家様特設ページ

何とbandcampで無料で聴けるようになりました。
勿論惚れたらお金も払えます。


※長母音記号は勝手につけました。
※カナ読みは、白字が教会式発音風ルビ、
青字が古典式発音風ルビです。前者の短音長音は適当です。古典式のアクセントは強弱ではなく高低ですが、ここではどうでもいいです。
※参考にちょっと書いたヘブライ語横のアルファベット表記は翻字です。カナ読みは朗誦用発音を横目で見つつぶん投げて書いています。(こちらの現代口語式発音準拠とは違う方式です。)

Psalmī(プルミ)〔古:プルミー〕・・「詩篇」。第2変化男性名詞psalmus(聖歌、讃美歌)の、ここでは複数主格。ここではアブラハムの宗教における「詩篇」を指す。ギリシア語訳聖書(セプトゥアギンタ)におけるタイトルΨαλμοί(プサルモイ)に由来する。これは男性名詞ψαλμός(プサルス 絃の音、弦楽器の伴奏で歌う歌)の複数主格。
 「詩篇」原文のヘブライ語ではתְּהִלִּים/təhillîm/(テヒッーム)。現代口語式発音は/tehilim/(テヒーム)。女性名詞תְּהִלָּה/təhillāh/(テヒッー 誉れ、栄光、賛美、賛歌)の複数形。旋律をつけて歌うために書かれた詩。
 ヘブライ語聖書(タナハ)では、全5巻150篇で編纂されている。ラテン語訳聖書(ウルガータ)だと全5巻151篇または150篇。
5クィーンクェ)・・quīnque
2-9ドゥーオ アド ーヴェム)〔古:ドゥオ アド ウェム〕・・duo ad novem

『詩篇 第5篇第2-9節』

 ここで歌われているのは、ウルガータの詩篇第5篇の第2~9節。
 ちなみに第1節は、タイトルのようなもので、"in fīnem prō eā quae hērēditātem cōnsequitur psalmus Dāvīd."「最後に(最後まで)、相続財産を得る彼女のために、ダビデの賛歌」
 日本語の聖書をお持ちなら「あれ?」と思うことだろう。本来の(タナハ詩篇での)意味はどうあれ、カトリック教会では長くこの訳が普及していた。
 これが訴訟での勝利を目指す女性のための歌ならば、表題曲「調和性ラトゥリア」と呼応しているかもしれない。

 こちらは日本語訳とか英語訳聖書との違いが気になる人用の駄文。別に読まなくていいやつ。

2 Verba mea auribus percipe, Domine;
intellige clamorem meum.
3 Intende voci orationis meæ, rex meus et Deus meus.
4 Quoniam ad te orabo, Domine:
mane exaudies vocem meam.
5 Mane astabo tibi, et videbo
quoniam non Deus volens iniquitatem tu es.
6 Neque habitabit juxta te malignus,
neque permanebunt injusti ante oculos tuos.
7 Odisti omnes qui operantur iniquitatem;
perdes omnes qui loquuntur mendacium.
Virum sanguinum et dolosum abominabitur Dominus.
8 Ego autem in multitudine misericordiæ tuæ introibo in domum tuam;
adorabo ad templum sanctum tuum in timore tuo.
9 Domine, deduc me in justitia tua:
propter inimicos meos dirige in conspectu tuo viam meam.

(Psalmi 5 2-9)

(00:00~00:36)

ヴェルバ メー アウリブス ルチペ ーミネ
Verba mea auribus percipe, Domine;
ウェルバ アウリブス ルキペ ミネ
名詞 所有形容詞 名詞 動詞 名詞
言うこと(複)を 私の 両耳に (君が)聞き入れろ 主よ
(君が)私の言うことを耳に入れろ、主よ、

verbaは第2変化中性名詞verbum(言葉、単語、発言、陳述、格言、呪文、動詞)の、ここでは複数対格。
meaは一人称単数の所有形容詞。ここでは中性複数対格形。
auribusは第3変化r幹女性名詞auris(耳、聴覚、識別力)のここでは複数与格。
percipeは第3活用iō型他動詞percipiō(掴む、取り入れる、獲得する、理解する、気付く、知覚する、習得する)の命令法能動二人称単数形。
domineは第2変化男性名詞dominus(主人)の単数呼格。

『我が言葉に耳を傾け給え、主よ』

インッリヂェ クラーレム ーウム
intellige clāmōrem meum.
インッリゲ クラーーレム ウム
動詞 名詞 所有形容詞
(君が)知覚しろ 叫び声を 私の
(君が)私の叫び声を聞き取れ。

intelligeは第3活用自他動詞intelligō(認識する、知覚する、理解する、悟る、意図する、理解力を持っている)の命令法能動二人称単数形。
clāmōremは第3変化r幹男性名詞clāmor(叫び声、歓声、喧騒、鬨の声、反響)の単数対格。
meumは一人称単数の所有形容詞。ここでは男性単数対格形。

『我が号呼ごうこを聞き澄まし給え』

インンデ ヴォーチ オラツィーニス
Intende vōcī ōrātiōnis, meæ,
インンデ ウォーキー オーラーティーニス アエ
動詞 名詞 名詞 所有形容詞
(君が)聞け、注意を向けろ 声に 祈りの 私の
(君が)私の祈りの声に注意を向けろ、

intendeは第3活用自他動詞intendō(ぴんと張る、引っ張る、広げる、緊張させる、強める、伸ばす、注意を向ける、起訴する、専心する)中世ラテン語(理解する、聞く、考える、従う)の命令法能動二人称単数形。
vōcīは第3変化c幹女性名詞vōx(声、言葉)の単数与格。
ōrātiōnisは第3変化n幹女性名詞ōrātiō(話すこと、談義、言い回し、文体、発言、演説、伝言、品詞、方言、勅令、祈祷)の単数属格。
meæ(meae)は一人称単数の所有形容詞。ここでは女性単数属格形。
※AE(ae)は元々二重母音だったけど、時代が下るとだんだん短母音で発音されるようになる。なので、綴りもÆ(æ)とくっつけて書くことがあった。

ックス ーウセット ーウス ーウス
rēx meus et Deus meus.
ークス ウセト ウス ウス
名詞 人称代名詞 接続詞 名詞 人称代名詞
王は 私の そして 神は 私の
私の王は、そして私の神は。

rēxは第3変化g幹男性名詞の、ここでは単数主格。「王、君主、庇護者」を意味する。
meusは一人称単数の所有形容詞。男性単数主格形。
etは無変化の接続詞。
deusは第2変化男性名詞の単数主格。「神、造物主」を意味する。rēxを呼格、deusを呼格扱いとして「私の王にして私の神よ」と取れなくはない。セプトゥアギンタだと"ὁ βασιλεύς μου καὶ ὁ θεός μου"。ὁ βασιλεύς(ホ バスィレウス 王)もὁ θεός(ホ テス 神)も主格。
※deusは呼格がなく、主格が呼格扱いされることがままある名詞。(後期ラテン語だと、キリスト教徒の詩人や学者の文章に呼格形deeが稀に使われてはいる。)

『我が王にして我が神、我が祈りの声に御心を留め給え』

クォーニアム アド ーボ ーミネ
Quoniam ad ōrābō, Domine:
クォニアム アド オーーボー ミネ
接続詞 前置詞 人称代名詞 動詞 名詞
~だから ~に向かって 君(を) (私は)嘆願するだろう 主よ
(私は)君に向かって嘆願するだろうから、主よ、

quoniamは接続詞。「~であるからには、~だから」。
adは対格支配の前置詞。
は二人称単数の人称代名詞。ここでは対格。
ōrābōは第1活用自他動詞ōrō(嘆願する、祈る、論ずる、弁ずる)の直接法能動未来一人称単数形。
domineは第2変化男性名詞dominus(主人)の単数呼格。

『我、汝に願い奉るゆえ、主よ』

ーネ エクサウディエス ヴォーチェム ーアム
māne exaudiēs vōcem meam.
ーネ エクサウディエース ウォーケム アム
副詞 動詞 名詞 所有形容詞
朝早くに (君は)聞き取るだろう 声を 私の
(君は)朝早くに私の声を聞き取るだろう。

māneは無変化の中性名詞で「朝」、または副詞で「早朝に」。
exaudiēsは第4活用他動詞exaudiō(聞き取る、聞き届ける)の直接法能動未来二人称単数形。
vōcemは第3変化c幹女性名詞vōx(声、言葉)の単数対格。
meamは一人称単数の所有形容詞。女性単数対格形。

『汝、早天そうてんに我が声を聞き給わん』

ーミネ ーネ エクサウディエス ヴォーチェム ーアム
Domine, māne exaudiēs vōcem meam.
ミネ ーネ エクサウディエース ウォーケム アム
名詞 副詞 動詞 名詞 所有形容詞
主よ 朝早くに (君は)聞き取るだろう 声を 私の
主よ、(君は)朝早くに私の声を聞き取るだろう。

『主よ、早天に我が声を聞き給わん』

(00:37~00:48)

ーネ アスーボ ティービ エト ヴィーボ
Māne astābō tibi, et vidēbō
ーネ アスーボー ティ エト ウィーボー
副詞 動詞 人称代名詞 接続詞 動詞
朝早くに (私は)側に立っているだろう 君に そして (私は)会うだろう
(私は)朝早くに君の側に立ち、まみえるだろう

māneは無変化の中性名詞で「朝」、または副詞で「早朝に」。
astābōは第1活用自動詞astō(側に立っている、待っている、直立している、援助する、補佐する)の直接法能動未来一人称単数形。
tibiは二人称単数の人称代名詞与格。ここでは自動詞の目的語。
 "astābō tibi"で「私は君の側に立っているだろう」とも「私は君を待っているだろう」とも訳せる。
 セプトゥアギンタだとπαραστήσομαί σοι(パラスーソマイ ソイ)「私は君の側に立つだろう」。どっちでも「側で助ける」意味にも取れる。
 タナハだとאֶעֱרָךְ־לְךָ/'e'ĕrāḵ-ləḵā/(エエーハ・レー)「私は君のために準備する(/並べる/整える)だろう」。「あなたのために生贄を備えるだろう」とも「あなたに訴えたい言葉を備えておくだろう」とも解釈されてる。
etは無変化の接続詞。
vidēbōは第2活用他動詞videō(見る、見渡す、観察する、目撃する、会う、感知する、予見する)の直接法能動未来一人称単数形。セプトゥアギンタだとἐπόψομαι(エプソマイ)「私は見る(注視する)だろう」。
 タナハだとוַאֲצַפֶּה/wa'ăṣappeh/(ヴァアツァッ)「そして私は見る(/見張る/期待する/待つ)だろう」。
 こんな感じなので、この部分、英語訳も日本語訳もたぶんその他言語の訳も結構ばらつきがある。

『早天に、我、汝のそばはべりて拝謁せん』

クォーニアム ウス ヴォーレンス イニクィーテム トゥ ース
quoniam nōn Deus volēns inīquitātem es.
クォニアム ーン ウス ウォレーンス イニークィーテム トゥ
接続詞 副詞 名詞 形容詞(分詞) 名詞 人称代名詞 動詞
~だから ~でない 神(は) 望んでいる 不正を 君は (君は)~である
君は不正を望んでいる神ではないから。

quoniamは接続詞。「~であるからには、~だから」。
nōnは否定の副詞。
deusは第2変化男性名詞の単数主格。「神、造物主」を意味する。
volēnsは不規則活用自他動詞volō(欲する、望む、定める、~つもりである、命じる、主張する、意図する)の能動現在分詞(第3変化形容詞)。ここでは男性単数主格形。
inīquitātemは第3変化t幹女性名詞inīquitās(でこぼこ、不平等、敵意のある偏見、不公平、不正、不当、不都合)の単数対格。
 タナハだとרֶשַׁע/reša'/(シャ 邪悪、不義、悪意)。
は二人称単数の人称代名詞主格。
esは英語のbeに当たる不規則活用自動詞sumの直接法(能動)現在二人称単数形。

『汝、曲事きょくじを望み給う神にあらざるゆえ』

(00:55~01:22)

ークェ アビービト ークスタ ーニュス
Neque habitābit jūxtā malignus,
クェ ハビービト ークスター グヌス
接続詞 動詞 前置詞 人称代名詞 名詞(形容詞)
そして~でない (それは)住むだろう ~のすぐ近くに 君(を) 悪意ある者は
そして悪意ある者は君の近くには住まないだろう、

nequeは無変化の接続詞。
habitābitは第1活用自他動詞habitō(住む、留まる、執着する)の直接法能動未来三人称単数形。
jūxtā(iuxtā)は対格支配の前置詞。「~のすぐ近くに、~の直後に、ほとんど、~に従って」。
は二人称単数の人称代名詞。ここでは対格。
malignusは第1第2変化形容詞。男性単数主格形。「意地が悪い、悪意のある、不毛の、けちな、乏しい」。ここでは男性名詞化。中性名詞化してmalignumなら単に「悪意は」だろうけど、ここは「悪意ある男は」か。
 タナハではシンプルにרָע/rā'/(ー 悪)。

『悪漢は汝のかたわらに住まわず、』

ークェ ペルマーブント インースティ ンテ オクース トゥオス
neque permanēbunt injūstī ante oculōs tuōs.
クェ ペルマーブント インースティー ンテ オクース トゥオース
接続詞 動詞 名詞(形容詞) 前置詞 名詞 所有形容詞
そして~でない (それらは)留まり続けるだろう 不埒者たちは ~の前に 両目(を) 君の
そして不埒者たちは君の目の前に留まり続けないだろう。

nequeは無変化の接続詞。"neque~ neque~"で「~もなく、~もない」。
permanēbuntは第2活用他動詞permaneō(最後まで留まる、持ちこたえる、持続する、存続する、固執する)の直接法能動未来三人称複数形。
injūstī(iniūstī)は第1第2変化形容詞injūstus(iniūstus)(不正な、不当な、過酷な、不適切な)のここでは男性複数主格形。ここでは男性名詞化。
 タナハではהוֹלְלִים/hōwləlîm/(ホーレーム)。現代語だと「無法者たち、放蕩者たち」みたいな意味で使われるっぽいけど、この箇所は「驕り高ぶる者たち」みたいに訳されることが多い(語根のהלל/hll/は、輝きに関する言葉、賛美や自慢に関する言葉、馬鹿騒ぎに関する言葉等を作る。)
anteは対格支配の前置詞。時間や空間について「前に、前方に」、順位等について「先んじて、まさって」。
oculōsは第2変化男性名詞oculus(目、視力、視覚、目つき、視野、眼識)の複数対格。
tuōsは二人称単数の所有形容詞。男性複数対格形。

破廉恥漢はれんちかんどもは汝の眼前に居るを得ざるなり』

ディスティ ムネス クィ オペーントゥル イニクィーテム
Ōdistī omnēs quī operantur inīquitātem;
オーディスティー ムネース クィ オペントゥル イニークィーテム
動詞 名詞(形容詞) 関係代名詞 動詞 名詞
(君は)憎む あらゆる者たちを ~であるところの(男ら)は (それらは)はたらく 不正を
(君は)不正をはたらくすべての者たちを憎む、

ōdistīは第4活用他動詞ōdī(憎む、ひどく嫌う)の直接法能動現在二人称単数形。ōdīは現在形の活用を持たない欠如動詞で、完了形の活用が(未完了)現在、過去、未来を表す。
omnēsは第3変化形容詞omnis(すべての)のここでは男性複数対格形。ここでは男性名詞化して「すべての人々」。
quīは関係代名詞。ここでは男性複数主格形。
operanturは第1活用異態自他動詞operor(従事する、働く、供犠を行う、遂行する、もたらす)の直接法(能動)現在三人称複数形。
inīquitātemは第3変化t幹女性名詞inīquitās(でこぼこ、不平等、敵意のある偏見、不公平、不正、不当、不都合)の単数対格。
 タナハではכָּל־פֹּעֲלֵי אָוֶן/kāl-pō'ălê 'āwen/(ール・ポアー ーヴェン)。「אָוֶן/'āwen/(ーヴェン 不義、邪悪、不正行為)をはたらく者の全て」。

『汝は曲事きょくじを働く一切のやからを憎み給う』

ディスティ ムネス クィ オペーントゥル イニクィーテム ーミネ
Ōdistī omnēs quī operantur inīquitātem Domine:
オーディスティー ムネース クィ オペントゥル イニークィーテム ミネ
動詞 名詞(形容詞) 関係代名詞 動詞 名詞 名詞
(君は)憎む あらゆる者たちを ~であるところの(男ら)は (それらは)はたらく 不正を 主よ
(君は)不正をはたらくすべての者たちを憎む、主よ。

『汝は曲事を働く一切の輩を憎み給う、主よ』

(01:23~01:43)

ルデス ームネス クィ ロクントゥル メンーチウム
perdēs omnēs quī loquuntur mendācium.
ルデース ムネース クィ ロクントゥル メンーキウム
動詞 名詞(形容詞) 関係代名詞 動詞 名詞
(君は)滅ぼすだろう あらゆる者たちを ~であるところの(男ら)は (それらは)言う 虚言を
(君は)虚言を言うすべての者たちを滅ぼすだろう。

perdēsは第3活用他動詞perdō(破壊する、破滅させる、殺す、害する、浪費する、失う、忘れる、敗訴する)の直接法能動未来二人称単数形。
omnēsは第3変化形容詞omnis(すべての)のここでは男性複数対格形。ここでは男性名詞化。
quīは関係代名詞。ここでは男性複数主格形。
loquunturは第3活用異態自他動詞loquor(話す、言う、示す)の直接法能動現在三人称複数形。
mendāciumは第2変化中性名詞。ここでは単数対格。「嘘、虚言、偽物」の意味。

『汝は虚言を弄ずる一切の輩を滅ぼし給う』

ヴィールム サングイヌメト ーズム アボミービトゥル ーミヌス
Virum sanguinum et dolōsum abōminābitur Dominus.
ウィルム サングイヌメト ースム アボーミービトゥル ミヌス
名詞 名詞 接続詞 形容詞 動詞 名詞
男を 血(複)の そして 狡猾な (それは)忌み嫌うだろう 主人は
主は血に飢えた狡猾な男を忌み嫌うだろう。

virumは第2変化男性名詞vir{成人男子、勇敢な(男らしい)男、夫、恋人、個人、(複数形で)人類、兵士ら、船員ら}の単数対格。
sanguinumは第3変化n幹男性名詞sanguīs(血、流血、活力、血統、血縁)の複数属格。
 後期以降のラテン語だと、複数形で「血まみれ、暴力性、残酷さ、血を流すことへの忌避感や罪悪感」を表現することがある。
 タナハではדָּמִים/dāmîm/(ダーーン)。男性名詞דָּם/dām/(ーム 血)の複数形なので割と直訳。
 ここ、形容詞でsanguineum(辞書形:sanguineus)やsanguinārium(辞書形:sanguinārius)やsanguinolentum(辞書形:sanguinolentus)なんかを使っても、より分かり易く同じ意味のことが言える。詩として美しいかは措いといて。
etは無変化の接続詞。
dolōsumは第1第2変化形容詞dolōsus(狡猾な、あくどい、欺瞞の、あてにならない)の単数対格。
abōminābiturは第1活用異態他動詞abōminor(凶兆として咎める、忌み嫌う)の直接法能動未来三人称単数形。
dominusは第2変化男性名詞単数主格。

『主は血にかつうる狡知こうち嫌厭けんえんし給う』

ークェ アビービト ークスタ ーニュス
Neque habitābit jūxtā malignus,
クェ ハビービト ークスター グヌス
接続詞 動詞 前置詞 人称代名詞 名詞(形容詞)
そして~でない (それは)住むだろう ~のすぐ近くに 君(を) 悪意ある者は
そして悪意ある者は君の近くには住まないだろう、

『しかして、悪漢は汝の傍らに住まわざるなり』

(02:02~02:22)

アウテミン ムルティトゥーディネ ミゼリールディエ トゥーエ
Egō autem in multitūdine misericordiæ tuæ
ゴー アウテミン ムルティトゥーディネ ミセリルディアエ トゥアエ
人称代名詞 接続詞 前置詞 名詞 名詞 所有形容詞
私は しかし ~のもとで 豊富(から) 慈悲の 君の
しかし、私は君の慈悲の豊富(豊かな慈悲)のもとで

egōは一人称単数の人称代名詞。主格。
autemは無変化の後置接続詞。「しかし、一方、これに反して、更に」。文頭にはつかない。
inは対格または奪格支配の前置詞。ここでは状況や状態の奪格。「~で、~において、~のもとで」。
multitūdineは第3変化n幹女性名詞multitūdō{大量、多数、豊富、群衆、大勢、大衆、(文法で)複数形}の単数奪格。
misericordiæ(misericordiae)は第1変化女性名詞misericordia{同情、あわれみ、慈悲、(あわれみを引き起こすような)惨めさ}の、ここでは単数属格。
tuæ(tuae)は二人称単数の所有形容詞。ここでは女性単数属格形。

『しかれども、我は汝の豊かなる慈悲のもと、』

イントローボ イン ームム トゥーアム
introībō in domum tuam;
イントローボー イン ムム トゥアム
動詞 前置詞 名詞 所有形容詞
(私は)入るだろう ~の中へ 家(を) 君の
(私は)君の家へ入るだろう、

introībōは不規則活用自動詞introeō(入る、出廷する、侵入する、~になる)の直接法能動未来一人称単数形。
inは対格または奪格支配の前置詞。ここでは目的地の対格。
domumは第2変化したり第4変化したりする女性名詞domus(家、住居、故郷、祖国、世帯、家族、学派)の単数対格。
tuamは二人称単数の所有形容詞。女性単数対格形。

『汝の家に入らんとす』

アドーボ アド ンプルム ンクトゥム トゥウム イン ティーレ トゥ
adōrābō ad templum sānctum tuum in timōre tuō.
アドーボー アド ンプルム ーンクトゥム トゥウム イン ティーレ トゥオー
動詞 前置詞 名詞 形容詞 所有形容詞 前置詞 名詞 所有形容詞
(私は)祈るだろう ~へ向かって 神殿(を) 聖なる 君の ~のもとで 畏敬(から) 君の
君の畏敬のもと、(私は)君の聖なる宮へ祈るだろう。

adōrābōは第1活用他動詞adōrō(話しかける、懇願する、祈願する、崇拝する)の直接法能動未来一人称単数形。
adは対格支配の前置詞。ここでは目的地の対格。
templumは第2変化中性名詞。ここでは単数対格。 元々は「区切られた場所」。卜占師が杖で目印をつけた観察区画。ここから「聖域、神域、神殿」。教会ラテン語ではほぼこの意味。建築用語で「母屋桁」を意味することもある。
sānctumは第1第2変化形容詞sānctus(神聖な、聖なる、不可侵の)の、ここでは中性単数対格形。
 タナハではאֶל־הֵיכַל־קָדְשְׁךָ/'el-hêḵal-qāḏšəḵā/(ル・ヘーール・クァードシェー)「君の神聖宮殿(神殿)に向かって」。
tuumは二人称単数の所有形容詞。ここでは中性単数対格形。
inは対格または奪格支配の前置詞。ここでは状況や状態の奪格。「~で、~において、~のもとで」。
timōreは第3変化男性名詞timor(恐怖、懸念、恐れの対象、畏敬)の単数奪格。
tuōは二人称単数の所有形容詞。ここでは男性単数奪格形。

『汝をかしこみて、汝の聖なる宮へと祈り奉らん』

(02:30~02:49)

ーミネ ーデュク イン ユスティツィア トゥーア
Domine, dēdūc in jūstitiā tuā:
ミネ ーデューク イン ユースティティアー トゥアー
名詞 動詞 人称代名詞 前置詞 名詞 所有形容詞
主よ (君は)導け 私を ~によって 正義(から) 君の
主よ、(君は)君の正義によって私を導け、

domineは第2変化男性名詞dominus(主人)の単数呼格。
dēdūcは3活用他動詞dēdūcō(引き下ろす、率いて下る、出帆させる、連れ去る、移動させる、移民させる、追い出す、誘う、導く、等)の命令法能動二人称単数形。
は一人称単数の人称代名詞。ここでは対格。
inは対格または奪格支配の前置詞。
jūstitiā(iūstitiā)は第1変化女性名詞jūstitia(iūstitia)(正義、公正、公平)の単数奪格。
tuāは二人称単数の所有形容詞。女性単数奪格形。

『主よ、汝の義によりて我を導き給え』

ーミネ ーデュク イン ユスティツィア トゥ
Domine, dēdūc in jūstitiā tuā:
ミネ ーデューク イン ユースティティアー トゥアー
名詞 動詞 人称代名詞 前置詞 名詞 所有形容詞
主よ (君は)導け 私を ~によって 正義(から) 君の
主よ、(君は)君の正義によって私を導け、

ープテル イニーコス オス
propter inimīcōs meōs
プテル イニーコース オース
前置詞 名詞 所有形容詞
~のゆえに 敵たち(を) 私の
私の敵たちのゆえに、

propterは対格支配の前置詞。
inimīcōsは第2変化男性名詞inimīcus(敵)の複数対格。
meōsは一人称単数の所有形容詞。男性複数対格形。

『主よ、我があだのゆえに、汝の義によりて我を導き給い、』

ディーリヂェ イン コンスクトゥ トゥ ヴィアム ーアム
dīrige in cōnspectū tuō viam meam.
ディーリゲ イン コーンスクトゥー トゥオー ウィアム アム
動詞 前置詞 名詞 所有形容詞 名詞 所有形容詞
(君は)まっすぐにしろ ~において 視界(から) 君の 道を 私の
君の眼前に、(君は)私の道をまっすぐにしろ。

dīrigeは第3活用他動詞dīrigō(まっすぐにする、整列させる、導く、発射する、調整する)の命令法能動二人称単数形。
inは対格または奪格支配の前置詞。
cōnspectūは第4変化男性名詞cōnspectus(見ること、視界、視力、外観、考察)の単数奪格。
tuōは二人称単数の所有形容詞。ここでは男性単数奪格形。
viamは第1変化女性名詞via(道、通り、通路、管、道のり、行程、手段)の単数対格。
meamは一人称単数の所有形容詞。女性単数対格形。
 タナハではלְפָנַי דַּרְכֶּךָ/ləp̄ānay darkeḵā/(レファーイ ダルケー)「私の面前に君の道を」。…待て。入れ替わってない?やっぱりセプトゥアギンタは"ἐνώπιόν σου τὴν ὁδόν μου"「君の面前に私の道を」か。

『汝の御前に、我が道をなおくし給え』

(02:50~03:27)

ヴェルバ メー アウリブス ルチペ ーミネ
Verba mea auribus percipe, Domine;
ウェルバ アウリブス ルキペ ミネ
名詞 所有形容詞 名詞 動詞 名詞
言うこと(複)を 私の 両耳に (君が)聞き入れろ 主よ
(君が)私の言うことを耳に入れろ、主よ、

『我が言葉に耳を傾け給え、主よ』

インッリヂェ クラーレム ーウム
intellige clāmōrem meum.
インッリゲ クラーーレム ウム
動詞 名詞 所有形容詞
(君が)知覚しろ 叫び声を 私の
(君が)私の叫び声を聞き取れ。

『我が号呼ごうこを聞き澄まし給え』

インンデ ヴォーチ オラツィーニス
Intende vōcī ōrātiōnis, meæ,
インンデ ウォーキー オーラーティーニス アエ
動詞 名詞 名詞 所有形容詞
(君が)聞け、注意を向けろ 声に 祈りの 私の
(君が)私の祈りの声に注意を向けろ、

ックス ーウセット ーウス ーウス
rēx meus et Deus meus.
ークス ウセト ウス ウス
名詞 人称代名詞 接続詞 名詞 人称代名詞
王は 私の そして 神は 私の
私の王は、そして私の神は。

『我が王にして我が神、我が祈りの声に御心を留め給え』

クォーニアム アド ーボ ーミネ
Quoniam ad ōrābō, Domine:
クォニアム アド オーーボー ミネ
接続詞 前置詞 人称代名詞 動詞 名詞
~だから ~に向かって 君(を) (私は)嘆願するだろう 主よ
(私は)君に向かって嘆願するだろうから、主よ、

『我、汝に願い奉るゆえ、主よ』

ーネ エクサウディエス ヴォーチェム ーアム
māne exaudiēs vōcem meam.
ーネ エクサウディエース ウォーケム アム
副詞 動詞 名詞 所有形容詞
朝早くに (君は)聞き取るだろう 声を 私の
(君は)朝早くに私の声を聞き取るだろう。

『汝、早天そうてんに我が声を聞き給わん』

ーミネ ーネ エクサウディエス ヴォーチェム ーアム
Domine, māne exaudiēs vōcem meam.
ミネ ーネ エクサウディエース ウォーケム アム
名詞 副詞 動詞 名詞 所有形容詞
主よ 朝早くに (君は)聞き取るだろう 声を 私の
主よ、(君は)朝早くに私の声を聞き取るだろう。

『主よ、早天に我が声を聞き給わん』

(03:27~03:39)

ーネ アスーボ ティービ エト ヴィーボ
Māne astābō tibi, et vidēbō
ーネ アスーボー ティ エト ウィーボー
副詞 動詞 人称代名詞 接続詞 動詞
朝早くに (私は)側に立っているだろう 君に そして (私は)会うだろう
(私は)朝早くに君の側に立ち、まみえるだろう

『早天に、我、汝のそばはべりて拝謁せん』

クォーニアム ウス ヴォーレンス イニクィーテム トゥ ース
quoniam nōn Deus volēns inīquitātem es.
クォニアム ーン ウス ウォレーンス イニークィーテム トゥ
接続詞 副詞 名詞 形容詞(分詞) 名詞 人称代名詞 動詞
~だから ~でない 神(は) 望んでいる 不正を 君は (君は)~である
君は不正を望んでいる神ではないから。

『汝、曲事きょくじを望み給う神にあらざるゆえ』

 『調和性ラトゥリア』の最後は讃美歌。表題曲よりも「ラトゥリア」ではあるが、「神の正義に反する者は滅ぼされる!」とか言ってるので「調和性」ではないかもしれない。まあ、聖句だの賛歌だのは大袈裟に言ってなんぼである。
 演奏はシンプルなんだけど、そこがいい。バロック時代の讃美歌にしれっと混ぜてたら、うっかり18世紀ぐらいの曲と勘違いするかもしれない。真名辺あやさんのラテン語大好き。あまりにも厳粛!先に曲ができて、よくこの歌を乗せられたな?天才?知ってた。
 これも結構難しいけど、「調和性ラトゥリア」や「Oro e ortiche」よりは歌えそう。なお、クオリティーは問わないものとする。

 まだちょっと解像度低いけど、アルバム全体を通して、最後には正義が勝って欲しい、頑張っている人(人以外も含む)の直向きな思いが報われて欲しい、と語ってる気がする。



素材を一部加工の上お借りしています↑

この文章書いてる人はラテン語、ギリシア語、ヘブライ語に関してド素人です。
アブラハムの宗教に関しては更に理解が乏しいです。
このページはあくまで『調和性ラトゥリア』CD等買った人向け、
参考にならない辞書もどきであって、
著作権侵害の意図はありません。が、もし怒られたら消えます。

参考文献

参考・引用資料
ラテン語ウルガータ
"Vuldate.org"内"Psalmi - Chapter 5 Psalms" https://vulgate.org/ot/psalms_5.htm
ギリシア語セプトゥアギンタ
"Bible Hub"内"Swete's Septuagint Psalm 5" https://biblehub.com/sepd/psalms/5.htm
ヘブライ語タナハ
"Bible Hub"内"Hebrew Texts Analysis Psalm 5:1" https://biblehub.com/text/psalms/5-1.htm
日本語聖書
『旧約聖書』(日本聖書協会 1955改訳)

"Sefaria A Living Library of Torah" https://www.sefaria.org/texts
"The Cambridge Greek Lexicon"(Cambridge Univ Pr. 2021)
『聖書ヘブライ語日本語辞典 聖書アラム語語彙付』(ミルトス 2018)
『聖書ヘブライ語文法 改定版』(青山社 2021第2刷重版)
『現代ヘブライ語辞典』(日本ヘブライ文化協会 2014改版第12刷)